旅館のリノベーション費用はどれくらい必要?成功のポイントも解説

旅館経営者にとって、大きな課題の一つとなるのが「施設のリノベーション」です。特に、旅館の老朽化が進んでくると「改装した方がよいか」「費用はどれくらいかかるのか」と悩む方は少なくありません。施設を買い取り、新たに旅館を開業したい人にとっても、リノベーションの費用感や進め方は大きな関心事でしょう。
この記事では、おもに以下の4点について解説します。
- 旅館リノベーションの目的やメリット
- 客室や大浴場などエリア別のリノベーションパターン
- 費用相場や補助金制度
- リノベーションによる成功事例や押さえておきたい重要ポイント
これから宿泊業を始めたい方や、既存旅館のリニューアルを考えている経営者・後継者の方は、ぜひこの記事を参考にしてください。
なお、旅館・ホテル業界の経営を始める前に知っておくべきリスクや、その対処法に関する詳しい情報については、下記の記事をご覧ください。
【関連記事】ホテル経営で失敗しないために!開業前に知るべきリスクと成功への道

旅館をリノベーションする目的・メリットとは?
旅館のリノベーションは、建物の老朽化を防ぐためだけが目的ではありません。変化する観光需要や旅行者のライフスタイルに対応し、経営の方向性を見直す絶好のチャンスでもあります。
古い施設をそのまま維持していると、顧客満足度の低下や集客力の衰退につながりやすく、経営に悪影響を及ぼします。だからこそ、現代のニーズに合った空間やサービスを整えることが重要なのです。
リノベーションの実施により得られるメリットは、次の5つです。
- 顧客体験の向上
- 新たな顧客層の獲得
- 客単価の向上
- 業務効率化と人手不足対策
- ブランドイメージの刷新
たとえば、ベッドの導入やWi-Fi環境の強化は、現代の旅行者にとって欠かせない快適要素です。こうした改修は滞在満足度を押し上げ、結果的にリピーター獲得にもつながります。
加えて、没入型リトリート旅(心身のリセットを目的とした滞在スタイル)やスロートラベル(地域にじっくり滞在して体験を楽しむ旅行形態)ワーケーション需要やサウナブームなど、新しい旅行スタイルに対応するリノベーションを行えば、これまで取り込めなかった新規顧客層を呼び込むことが可能です。
さらに、露天風呂付き客室のように特別感のある仕様を設ければ、高付加価値化を実現でき、宿泊料金を上げても選ばれる旅館となるでしょう。
一方で、リノベーションは顧客だけでなく従業員にもメリットがあります。清掃動線の改善や業務効率を高める設備の導入は、限られた人員でもスムーズな運営を可能にし、人材不足のリスク軽減にもつながる工夫です。
そして最後に、新しいコンセプトを打ち出すことは、単なる改装を超えた意味を持ちます。古き良き旅館の趣を残しつつ、現代的なスタイルを取り入れることでブランド価値を刷新し、競合との差別化が測れるのです。
【場所別】旅館リノベーションの代表的なパターン
旅館のリノベーションは、どのエリアを優先的に実施するかによって効果が大きく変わります。ここでは代表的な場所別のパターンを紹介します。
- 客室:顧客満足度に直結する最重要エリア
- 大浴場・温浴施設:旅館の魅力を引き出す「癒し」の空間
- ロビー・ラウンジ:旅館の「顔」となるおもてなしの空間
- 宴会場・食事処:食事スタイルの変化に対応する
順に見ていきましょう。
客室:顧客満足度に直結する最重要エリア
旅館に滞在する時間の大半を過ごす客室は、リノベーション効果が最も顕著に表れるエリアです。近年は和室中心から、ベッドを設置した「和モダンスタイル」へのリノベーションが人気を集めています。
畳とベッドの融合は幅広い年代に支持され、特に高齢者や海外ゲストに快適な宿泊体験を提供できます。また、インバウンド需要を見据えたユニバーサルデザインの導入も重要です。段差を減らす、手すりを設置するなどの工夫は安全性を高め、より多くの顧客層に選ばれるきっかけになるでしょう。
さらに、客室の魅力を最大化するために、景色を楽しめる大きな窓やテラス席を設置する改装も有効です。稼働率の低い客室を大胆にリノベーションし、露天風呂付きやコンセプトを変えた特別ルームに生まれ変わらせることで、客単価アップと差別化を同時に実現できるでしょう。
インバウンド向けの対策については、以下の記事もご覧ください。
【関連記事】【2025年最新】ホテル・旅館のインバウンド対策は何から始める?集客から受け入れ体制まで網羅
大浴場・温浴施設:旅館の魅力を引き出す「癒し」の空間
旅館の大浴場や温浴施設は、滞在の満足度を左右する重要な要素です。近年はプライベート志向が高まり「貸切風呂」の新設や改装が人気を集めています。また、サウナブームに応える形で新設やリニューアルを行う旅館も増加中です。
加えて、古くなった共用トイレを改装して清潔感を高めれば、施設全体の印象が大きく高まります。
ロビー・ラウンジ:旅館の「顔」となるおもてなしの空間
ロビーやラウンジは、宿泊者が最初に触れる旅館の「顔」です。照明や家具を一新するだけでも印象は大きく変わります。さらに、ウェルカムドリンクを提供したり、読書スペースを備えたライブラリー機能を加えたりすれば、宿泊者の満足度を高められます。
また、Wi-Fi環境を整備し、ワーケーションにも対応できるワークスペースを用意できれば、新しい需要の取り込みにもつながるでしょう。
宴会場・食事処:食事スタイルの変化に対応する
団体旅行が減少する中、利用頻度が下がった大広間をそのままにしておくのは非効率です。そこで、個室の食事処や小規模な客室にリノベーションする活用法が注目されています。
さらに、ライブキッチンを設置して調理の臨場感を楽しんでもらうなど、食事をエンターテインメントとして提供するリノベーションも効果的です。食体験をより豊かに演出することは、旅館の大きな魅力アップにつながります。
【費用相場】旅館リノベーションにはいくらかかる?
旅館のリノベーション費用は、場所や工事内容によって大きく変動します。ここでは代表的な改装箇所ごとの相場と、工事費を左右する主な要因を解説します。
場所別の費用相場
リノベーション費用は「最低限の内装改修」か「高付加価値リノベーション」かで大きく変わります。単なる客室改修であれば壁紙や床の張り替え程度なら100〜200万円ですが、露天風呂付き客室へリノベーションする場合は1,000万円以上かかるケースもあります。以下は代表的な目安です。
改装箇所 | 費用相場(目安) | 備考および特記事項 |
客室(一室あたり) | 100万~500万円 | 内装変更か高付加価値化かで大きく変動 |
貸切風呂(1箇所) | 300万~1,000万円以上 | 設備仕様や広さによって差が出る |
食事処の個室化 | 50万~300万円 | 大広間を分割する規模により変動 |
このように費用の幅が大きいため、目的やターゲット層を明確にした上で、適切な投資額を設定することが大切です。
工事費を左右する要因
旅館のリノベーション費用は、工事範囲や建物の条件によって大きく変わります。まず大きなポイントは改装範囲です。壁紙や床の張り替えなど、内装だけなら比較的低コストですが、水回りや構造部分を含む場合は費用が一気に高額になります。
さらに、使用する建材や設備のグレードも重要です。高級感のある天然木材やデザイン性の高い家具を採用するか、シンプルな既製品を選ぶかで予算に大きな差が出ます。
また、既存の建物の状態も見逃せません。築年数が古くアスベストが含まれていたり、耐震補強が必要だったりする場合は追加費用が発生します。
こうした要因が複雑に絡み合うため、最初の見積もりだけで判断するのはリスクがあります。必ず複数の業者に見積もりを依頼し、金額だけでなく工事範囲や内容も比較検討することが、納得のいくリノベーションを実現するための近道です。
賢く費用を抑える!旅館リノベーションで活用したい補助金制度
旅館のリノベーションは費用が大きいため、補助金制度の適切活用が資金負担の軽減につながります。ここでは代表的な制度を2つ紹介します。
- 事業再構築補助金
- 地域一体となった観光地の再生・観光サービスの高付加価値化事業
順に見てみましょう。
事業再構築補助金
「事業再構築補助金」は、コロナ禍を契機に創設され、現在も継続されている大型の補助制度です。新分野展開や業態転換など「新たな付加価値」を生み出す投資が対象となるため、旅館のリノベーションでも条件次第で利用できます。
たとえば、従来の和室主体の旅館を、ワーケーション対応や高付加価値の宿泊プランに転換するようなリノベーションは、申請の対象になる可能性があるでしょう。
制度名 | 事業再構築補助金 |
補助率 | 中小企業:2/3以内、大企業:1/2以内 |
補助額 | 100万円~1億円程度(枠による) |
対象 | 新分野展開、業態転換、事業再編等を伴うリノベーション |
特徴 | 大型投資でも補助対象になりやすい |
なお、採択には事業計画書の完成度が重視されるため、戦略的なストーリーづくりが不可欠です。
地域一体となった観光地の再生・観光サービスの高付加価値化事業
観光庁が実施する「地域一体となった観光地の再生・観光サービスの高付加価値化事業」は、観光地域の再生や観光産業の底上げを目的とした支援制度です。旅館の改装・リニューアルも、地域全体の観光資源強化に貢献する内容であれば対象に含まれる可能性があります。
たとえば、地域の伝統を活かしたコンセプトルームの改修や、インバウンド対応施設の整備などは、その一例です。
制度名 | 地域一体となった観光地の再生・観光サービス高付加価値化事業 |
補助率 | 1/2(経営体力、投資余力要件を満たした場合2/3) |
補助額 | 上限数1億円 |
対象 | 宿泊施設改修、インバウンド対応、地域資源活用型リノベーション |
特徴 | 観光地全体の魅力向上を重視する制度 |
ただし、申請には専門的な知識や地域との連携計画が求められます。旅館単独で進めるのは難しい場合も多いため、経験豊富な専門家へ相談するのが成功の近道といえるでしょう。
なお、ホテルや旅館の開業や経営時に使える補助金の最新情報については、下記の記事をチェックしてください。
【関連記事】#26_ホテル 補助金

コンセプトで魅せる!旅館リノベーション成功事例

地域文化と共生する再生モデル【ゆとりろ津和野】
リノベーションを成功させるためには、単に建物を新しくするだけでなく、地域との調和や新しい価値の創出が欠かせません。その好例が、島根県津和野町にある老舗温泉旅館「ゆとりろ津和野」の再生プロジェクトです。
築30年以上が経過し、老朽化と観光需要の減少で閉館の危機に直面していた同施設は、観光庁の「地域一体となった観光地の再生・観光サービスの高付加価値化事業」の認定を受けて、津和野町や旅館組合、観光協会と連携しながら全面的なリノベーションに取り組みました。
改装内容は外壁や客室の刷新にとどまらず、レストランやロビーのコンセプト変更、新たにプライベート性を重視した客室棟の整備など、多岐にわたります。さらに地元食材を活かした食体験を提供するなど、ハードとソフトの両面からブランドを再構築しました。



この取り組みは、旅館の魅力を再生するだけでなく、地域文化との共生や観光地全体の活性化にも貢献するモデルケースとして高く評価されています。
旅館のリノベーションは、ここでご紹介した「ゆとりろ津和野」のように、地域資源と連携し、単なる改修を超えたコンセプト設計を行うことが成功の鍵となるでしょう。
旅館のリノベーションを成功に導く5つの重要ポイント
リノベーションは、費用も労力もかかる大きなプロジェクトです。成功させるためには、工事そのものよりも事前の準備と戦略的な視点が欠かせません。ここでは特に重要な5つのポイントを紹介します。
- 明確なコンセプトとターゲット設定
- 顧客の声(口コミ)を分析する
- 建物全体のバランスを考慮する
- 長期的な視点での事業計画
- 信頼できるパートナー選び
順に見てみましょう。
明確なコンセプトとターゲット設定
まずは「誰に」「どんな体験を提供したいか」を明確に定義することが重要です。
- 家族連れ
- ビジネス客
- インバウンド旅行者など
狙う顧客層に応じて、最適なデザインやサービスは異なります。初期段階で方向性を固めることで、無駄のない効果的なリノベーションが可能になります。
顧客の声(口コミ)を分析する
既存の顧客が感じている不満点を見逃さないことが改善の第一歩です。
口コミやアンケートを丁寧に分析し、「部屋が暗い」「Wi-Fiが弱い」などの声を優先的に解消すれば、満足度は大きく向上します。顧客のリアルな意見を設計に反映させることが、成功への近道になるでしょう。
なお、ホテルや旅館でクレームが起こった際の対処法に関する情報については、下記の記事をお読みください。
【関連記事】ホテルにクレームが入ったら?とるべき対応とNG対応、防止策を解説
建物全体のバランスを考慮する
建物の一部だけを豪華に改装すると、未改改装部分とのギャップが際立ち、逆に不満につながってしまう可能性があります。廊下や共用スペースなど細部にも気を配り、全体の統一感を意識することが大切です。
部分改装であっても、全体のイメージを考慮した上で計画を立てましょう。
長期的な視点での事業計画
リノベーションは投資です。改装費をどのくらいの期間で回収するのか、事前にシミュレーションを行いましょう。客単価の向上や稼働率改善による収益増を見込み、現実的な回収計画を立てることが経営安定につながります。
短期の成果だけでなく、中長期的な視点が不可欠です。
信頼できるパートナー選び
施工業者はもちろん、コンセプト設計や事業計画の段階から伴走してくれる専門家を見つけることが成功の条件です。補助金活用や運営戦略に精通したパートナーを選ぶことで、計画立案から完成後の経営まで一貫したサポートが受けられます。
旅館リノベーションのことなら、リロホテルソリューションズに相談を!
旅館のリノベーションは「施工会社に任せれば終わり」というものではありません。どのような顧客層を狙うのか、リノベーション後の運営をどう収益につなげるのかといった戦略次第で、得られる成果も大きく変わります。
つまり、誰に相談するかが成功の分かれ道です。これまでご紹介してきたように、リノベーションは費用や補助金、デザインだけでなく、長期的な経営計画や差別化戦略とも密接に関わっています。
「リロホテルソリューションズ」は、ホテル・旅館業界に特化したコンサルティング会社として、補助金活用のサポートからコンセプト設計、運営改善まで、一貫した支援をご提供します。
現場での経験に基づく提案と、実績に裏打ちされたノウハウにより、単なる改装では終わらない「未来を見据えたリノベーション」が可能です。
リロホテルソリューションズへのお問い合せ・ご相談はこちらから
まとめ
旅館のリノベーションは、老朽化対策だけでなく、顧客満足度の向上、新しい需要の開拓、収益性の改善といった経営全般に直結する重要な投資です。客室や大浴場、ロビーなど改装する場所ごとに工夫次第で大きな効果が期待でき、補助金を活用すれば費用負担を抑えながらの実現も可能です。
ただし、成功のためには明確なコンセプトや長期的な事業計画が欠かせず、戦略的に取り組む必要があります。
そんなときに頼れる存在が、リロホテルソリューションズです。ホテル・旅館に特化した豊富な実績を持ち、補助金申請からコンセプト設計、運営改善まで一貫してサポートします。リノベーションを「未来への投資」にするため、ぜひリロホテルソリューションズにご相談ください。

【監修者情報】
株式会社リロホテルソリューションズ
「90日で黒字化」を目標に、全国リゾート地・過疎地の宿泊施設を運営してきたプロ集団です。
あらゆる課題を抱える宿泊施設様のご支援を行い、売上の確保だけでなく、収益確保や運営効率まで一貫したご支援を行います。