ホテル売却の流れと高く売るためのポイント|今が売り時と言われる理由とは?

近年、ホテルや旅館の経営者の中には、経営の厳しさや後継者問題から施設の売却を検討する方が増えています。しかし、売却に関する情報が不足しており、不安を感じている方も少なくありません。
この記事では、ホテル売却に関して主に下記の3点を解説します。
- ホテル売却のメリット・デメリット
- 売却の流れ
- 売却価格に影響する要因
専門的な知識や経験が求められる売却プロセスにおいて、プロフェッショナルへの相談の重要性についても紹介していきますので、ホテル売却を考えている方はぜひ最後までご覧ください。
ホテル・旅館業界はなぜ今『売り時』なのか?
観光需要の回復と人手不足の深刻化が進む中、ホテル・旅館業界では売却の好機が訪れています。国内旅行やインバウンド需要の増加により市場が活性化する一方、人材確保の難しさが経営課題となっており、M&Aの動きが加速しています。
国内市場の回復とインバウンド需要の急増
日本のホテル・旅館業界は、コロナ禍から急速な回復を遂げています。観光庁の「宿泊旅行統計調査(2024年・年間値速報)」によれば、2024年の年間延べ宿泊者数は6億5,028万人で、コロナ前の2019年の宿泊者数を9.1%上回っています。前年比でも5.3%のプラスです。
また、訪日外国人の延べ宿泊人数は1億6,360万人で、パンデミック前の2019年と比較して41.5%、前年比では38.9%のプラスとなっています。円安や国際線の増便などの追い風もあり、今後インバウンド需要もさらに拡大すると見込まれています。
こうした流れはホテルや旅館の稼働率、収益性の向上につながっており、売却のタイミングとして好条件がそろっているといえるでしょう。
参照:観光庁|宿泊旅行統計調査 (2024年・年間値(速報値)) 1 -延べ宿泊者数の推移
ホテル業界の深刻な人手不足
一方で、ホテル・旅館業界が抱える最大の課題の一つが人手不足です。帝国データバンクの調査(2025年3月)では、正社員・非正社員ともに5割以上の宿泊施設が人手不足を訴えており、特に地方の小規模施設でその傾向が顕著になっています。
人手が不足している施設ではフロント業務や清掃、調理などの現場業務に大きな負担がかかり、サービス品質の維持が困難です。また、新たな人材の確保には時間とコストがかかるため、経営の持続可能性に不安を抱える経営者も増えています。
こうした状況から、早めに売却して経営のバトンを譲ろうと考える経営者も少なくありません。
参照:帝国データバンク|全国「旅館・ホテル市場」動向調査(2025年3月)
活発化するM&A
ホテル・旅館業界では、M&A(企業の合併・買収)が年々活発化しています。観光需要の回復や人手不足の長期化を背景に、経営資源を求める大手企業や投資ファンドが宿泊施設に注目しています。
特に、事業承継や再建を目的としたM&Aが増加傾向にあり、買い手の裾野が広がっている点も注目すべきポイントです。
外資系ファンドによる買収事例も相次いでいます。米国に拠点を置く大手投資会社ブラックストーンは、2021年に近鉄グループのホテル事業を買収しました。また、同じ米国の不動産投資会社ベントール・グリーンオーク・グループが、2024年にリーガロイヤルホテル(大阪)の信託受益権を取得しています。
このように、ホテル・旅館業界は、国内だけでなく国際的な視点からも注目される市場となっています。
売却を検討する経営者にとっては、競争力のある価格での売却が期待できる時期にあるといえるでしょう。
ホテル売却の主な方法
ホテルや旅館の売却には、さまざまな手法があります。どの方法が最適かは、施設の規模や収益状況、今後の展望によって異なります。
このセクションで紹介するのは、下記の代表的な2つの売却方法です。
- 事業譲渡(M&A)による売却
- 不動産としての売却
順に見ていきましょう。
事業譲渡(M&A)による売却
事業譲渡とは、ホテルの運営全体を第三者に引き継ぐ形で売却する方法です。単なる建物や土地の売却とは異なり、施設のハード面(建物・設備)に加えて、ソフト面(従業員・サービスのノウハウ・顧客基盤など)などの経営資源を一括で引き継ぐことが可能です。このような包括的な承継により、買い手は既存の仕組みを活用して事業をスピーディーに開始できます。
特に、安定した集客や売上がある施設は、ブランド力や評価サイトでの評判などの無形資産も高く評価されるため、売却価格が相場より高くなる傾向があります。
さらに、後継者不在や資金難などの課題を抱える経営者からも、事業を存続させるための現実的な選択肢として注目されています。
ただし、M&Aにおける交渉は、契約条項の調整や税務・法務上のリスク管理など多岐にわたり専門性が問われます。成功に導くには、M&A仲介会社や弁護士、公認会計士などの支援が不可欠です。
なお、事業譲渡の詳しい進め方や注意点に関しては、関連記事「ホテルM&Aで事業承継・新規参入を成功させるには?知っておきたい動向と注意点」もあわせてご覧ください。
不動産としての売却
不動産売却は、ホテルの営業を終了して建物や土地など不動産のみを売却する方法です。新たにホテルを開業したい事業者や、ホテル以外の用途に転用したい企業もしくは投資家にとっては大きな魅力となります。既存施設をリノベーションすることで、ホテルの新規オープンやオフィス、商業施設などへの再活用ができるからです。
特にインフラが整っている物件は、買い手にとって新築よりも初期費用や時間を大幅に削減できるため、低コストでの運営開始が可能になり、より売却価値が高まるでしょう。
ただし、新たにホテルを開業する場合には買い手側が旅館業法に基づく営業許可を改めて取得する必要があり、法的な制約や規制も確認しておく必要があります。売却前には、専門家による現況調査や法務・税務のチェックの徹底が重要です。
ホテルを売却するメリットとデメリット
ホテルをM&Aなどの手法で売却する際には、多くのメリットがある一方で、一定のデメリットも存在します。経営者にとって求められるのは、事業の将来性や従業員の雇用を守りながら、自身のライフプランを考慮した判断です。
ここでは、ホテル売却に伴う主な利点と留意点について紹介します。
メリット
後継者問題の解決
ホテル業界では後継者問題が顕在化しています。特に中小規模の施設では、経営者の高齢化や後継者不在により、やむを得ず廃業を選ぶケースが増加しています。
こうした中で注目されているのが、第三者への事業承継です。事業売却によって、これまで培ってきたサービスノウハウ、顧客との信頼関係などの無形資産の引継ぎが可能になります。
また、地域の観光資源としての役割を維持できる点も、社会的意義の高いメリットといえるでしょう。
経営者にとっては、自身の引退や新たなステージへの移行を前向きに進める手段として、有力な選択肢となっています。
従業員の雇用維持
廃業によってスタッフを解雇せざるを得ない状況は、経営者にとって精神的・社会的な負担が大きく、地域社会にも影響を与えかねません。M&Aによる売却であれば、買収企業の傘下で従業員の雇用を継続できるケースが多く、安心感もあります。
運営ノウハウや人材の質が買い手に高く評価されている場合には、待遇の改善やキャリア支援が可能になることも少なくありません。従業員にとっても、新たな職場環境でスキルを活かす機会が得られることはモチベーションの維持にもつながります。
雇用を守るという社会的責任の観点からも、M&Aは極めて有効な手段であるといえるでしょう。
経営基盤の強化
資本力のある企業や業界大手に事業を引き継ぐことで、ホテルの設備改修や内装の刷新、さらには新たなマーケティング施策への積極的な投資が実現しやすくなります。
特に、老朽化が進んでいる施設のリニューアルやITシステムの導入などの大規模な改善にも対応しやすくなるため、サービスの質向上にもつながるでしょう。単独では難しかったWeb集客の強化やSNS・OTA(オンライン旅行代理店)戦略の再構築など、経営資源の拡充が期待できます。
さらに、ブランド力やネットワークを活かした営業展開によって稼働率の向上が見込まれ、安定的な収益基盤を構築しやすくなります。
創業者利益の獲得
事業売却により、ホテルの経営資源を現金化できます。引退後の生活資金の確保はもちろん、新たな事業への再挑戦や不動産投資、資産運用など、多様な将来設計が可能になります。
また、長年にわたり経営してきたホテルが好条件で売却できれば、創業者利益(ファウンダーズゲイン)としてまとまった対価を得ることができ、これまでの努力が報われたという実感も得られるでしょう。
アーリーリタイアを検討する経営者にとっても、安心感と充実感のある選択肢といえます。
集客率の向上
大手ホテルグループに買収されれば、既存施設でも新たな集客戦略が展開される可能性が広がります。たとえば、認知度の高いチェーンが持つ予約システムやロイヤリティプログラムの導入により、稼働率の向上が見込まれます。
また、全国規模の広告ネットワークやSNSを活用したプロモーションが可能になれば、これまでの地元密着型の集客では届かなかった新たなターゲット層へのアプローチも可能になるでしょう。
さらに、インバウンド対応のノウハウや多言語サポート体制の整備などにより、外国人観光客からの支持も獲得しやすくなります。
このように、大手企業のブランド力と運営ノウハウを活かせば、従来の集客課題を抜本的に見直すチャンスが生まれます。
デメリット
優秀な人材の流出
買収企業の経営方針や社風が従業員の価値観や働き方と合致しない場合、離職者が発生する可能性があります。
特に、日々の業務を支えていた中核スタッフが退職すると、業務の混乱やサービス品質の低下を招くおそれがあります。スタッフの再教育や体制の再構築など新たな負担が発生するケースもあるでしょう。
また、買い手企業との事前の方針共有や価値観のすり合わせが不十分だと問題です。従業員間に不安が広がり、モチベーションの低下や生産性の停滞などの影響が職場全体に及ぶこともあります。
特に「経営者が代わるのでは?」という情報は、過度な風聞となって伝わりやすいため細心の注意が必要です。
手続きの複雑さ
ホテルの売却を進める際には、財務情報や法務関係、施設運営に関する資料の精査や整備が不可欠となり、精緻な契約交渉も求められます。高度な専門知識が必要とされるため、会計士や弁護士、M&A仲介業者など外部の専門家の力を借りることが重要です。
また、売却の交渉から契約締結までには通常数カ月以上の期間を要するため、その間のリソース確保やスケジューリングも必要です。
経営者にとっては、日々の業務と並行して進めるには相応の時間的・精神的な負担がかかるため、計画的な準備が求められます。
売却後の制約
売却時の契約内容によっては、元の経営者に対して一定期間の競業避止義務(同一地域や業種での新規開業禁止)が課されることがあります。さらに、前経営者として一定期間、買収先の企業に対する引継ぎ業務や経営支援を行うよう求められるケースも少なくありません。
こうした義務は、今後のキャリアプランや独立に向けた準備を考えている経営者に対し、大きな影響を及ぼすでしょう。
契約締結前には売却条件の詳細を十分に確認し、将来的な計画に支障が出ないよう慎重な判断が求められます。
M&Aによるホテル売却の流れ
ホテル売却を成功させるためには、M&Aの基本的な流れを理解しておくことが重要です。以下に、一般的な7つの手順を紹介します。
- 専門家への相談・依頼
- 施設に関する資料の提出
- 相手先候補の選定(マッチング)
- 相手先候補との交渉・トップ面談
- 基本合意契約の締結
- 買収監査(デューデリジェンス)
- 決済・引き渡し
順に見ていきましょう。
専門家への相談・依頼
まずは、M&Aに関する豊富な実績を持つ仲介会社や公認会計士、弁護士、金融機関などの専門機関に相談し、ホテル売却に対する自身の目的や希望を明確にします。
相談の初期段階では、情報漏洩を未然に防ぐため、秘密保持契約(NDA)を締結することが一般的です。
M&Aには高度な専門性と経験が求められるため、知識と実務能力を兼ね備えた信頼できる専門家を慎重に選ぶことが極めて重要です。適切なサポートを受けることで、売却成功の可能性が大きく高まるでしょう。
施設に関する資料の提出
ホテルの売却を希望する際には、主に下記のようなさまざまな資料の準備が必要です。
- 財務諸表
- 施設のスペック
- 建物や設備の評価
- 保有契約書類
- 従業員構成
- 顧客データベース など
これらの情報は、専門家によって企業価値を正確に評価するための重要な基礎資料となり、適正な売却価格の設定や交渉戦略の策定に直結します。
加えて、資料の内容に齟齬があった場合には、後の交渉で信頼を損ねる可能性もあるため、正確性と網羅性が重要です。
これらを踏まえた情報開示が、売却交渉をスムーズに進め、買い手候補からの信頼獲得と円滑な契約締結へとつながります。
相手先候補の選定(マッチング)
M&A仲介会社や専門家が、売却希望者の希望条件や事業の特性に合った買い手候補をリストアップし、マッチングを進めます。この段階では、単に売却価格を重視するだけでなく、買収後の施設の活用方針や従業員の処遇、地域との関係性など、多角的な視点から総合的に検討されます。
特に、経営者自身が今後のビジョンや事業に対する想いを明確に共有すれば、買い手側の理解や共感を得やすくなり、双方にとって納得度の高いマッチングが成立しやすくなるでしょう。
こうした丁寧なプロセスを経れば、売却後のトラブルを未然に防ぎ、より良い事業承継へとつながります。
相手先候補との交渉・トップ面談
候補者との条件交渉に入る段階では、譲渡価格や従業員の処遇、営業方針、今後の運営ビジョンに至るまで、さまざまな項目に関して具体的な話し合いが行われます。双方が納得できる形で合意に至るためには、細部まで誠実に交渉を重ねる姿勢が必要です。
特にトップ面談では、経営者同士が直接顔を合わせ、意見や考え方を率直に伝えることが重要です。経営理念や価値観、従業員への思いなど目に見えない要素も確認し合い、信頼関係の構築が求められます。
こうした対話を通じて、お互いの方向性が一致すれば、その後の交渉や契約手続きもスムーズになります。
基本合意契約の締結
交渉が一定の合意に達した段階で、基本合意契約(LOI)を締結します。この契約は法的拘束力は持ちませんが、今後のスケジュールや条件の大枠を明文化し、買い手側が買収監査へと進むための基盤となります。
買収監査(デューデリジェンス)
買収監査(デューデリジェンス)とは、買い手が、売却対象となるホテルの財務状況、法的リスク、税務上の問題、業務内容などを詳細に調査する行為のことです。このプロセスにより、買収価格の最終調整や契約条件の見直しが行われることもあります。正確な情報提供が信頼構築につながります。
最終契約の締結
買収監査の結果に問題がなければ、最終的な契約条件に合意し、法的拘束力を持つ売買契約を締結します。この契約には、譲渡価格、支払方法、競業避止義務などの詳細が明記されます。
決済・引き渡し
最終契約に基づき、買い手から譲渡代金の支払いを受け、施設の所有権や運営権を引き渡します。従業員の引継ぎや各種届出、法的手続きもこのタイミングで進められ、売却が正式に成立します。
ホテルの売却価格を左右する要因
ホテルを売却する際の価格は、単に施設の規模や見た目だけで決まるものではありません。
売却価格を左右する主な要因は下記の2点です。
- 立地・施設の状態・客室数・収益性
- 運営の安定性とブランド力
順に解説します。
立地・施設の状態・客室数・収益性
売却価格に大きな影響を与えるのが立地です。駅から近い、観光地へのアクセスが良い、商業エリアに近いなどの立地条件は、高評価につながります。
また、施設の築年数や清掃・修繕の状況、設備のグレードなども重要な判断材料です。さらに、客室数が多いほど、稼働率が同程度であれば売上が高くなるため、資産価値が高まる傾向があります。
過去の収益実績や平均客室単価(ADR)なども、収益性の高さを示す指標として重視されます。
運営の安定性とブランド力
安定した運営体制が整っているホテルは、買い手にとってリスクが低く、魅力的な投資対象となります。たとえば、稼働率が一定以上を維持している、スタッフの定着率が高い、業務フローが整っているなどの点は、プラス材料です。
さらに、ブランド力や知名度も重要です。口コミ評価が高い、OTA(オンライン旅行代理店)での露出が多い、SNSなどでの評価が良い場合、集客力の裏付けとして評価されます。
既存の運営ノウハウや接客品質も、譲渡後の事業継続性を担保するポイントです。
ホテルの売却はプロへの相談が成功の鍵!
ホテルを売却する際には、専門知識や実務経験が求められる複雑な手続きが数多くあります。適切な買い手の選定、契約条件の交渉、法的なリスク管理など、慎重かつ戦略的に進めなければならないため、自社だけで対応するのは現実的ではありません。
こうした場面で頼りになるのが、M&Aの専門家や仲介会社です。彼らは売却戦略の立案から資料作成、相手先のマッチング、条件交渉、最終契約までを一貫してサポートしてくれます。
中でも、ホテル・旅館業界に特化した支援を提供している「リロホテルソリューションズ」は、豊富な実績と専門知識を持ち、スムーズかつ高値での売却を目指す経営者にとって心強いパートナーとなるでしょう。
まとめ
本記事では、ホテル売却のタイミングや方法、メリット・デメリット、そして売却価格に影響する要因までを幅広く解説しました。観光需要の回復や人手不足の深刻化、M&A市場の活況などの背景から、今まさにホテル売却を検討する好機といえます。
特に、後継者不在や経営の将来に不安を抱えるオーナーにとっては、M&Aを通じた事業承継が有力な選択肢となります。
一方で、売却を成功に導くには、専門的な知識と実務対応が不可欠です。業界に特化した豊富な実績を持つ「リロホテルソリューションズ」への相談を通じて、最適な売却戦略を描いてみてはいかがでしょうか。

【監修者情報】
株式会社リロホテルソリューションズ
「90日で黒字化」を目標に、全国リゾート地・過疎地の宿泊施設を運営してきたプロ集団です。
あらゆる課題を抱える宿泊施設様のご支援を行い、売上の確保だけでなく、収益確保や運営効率まで一貫したご支援を行います。