旅館経営を始めるには?必要な準備・資格から成功の秘訣まで徹底解説

地方への移住や観光業への関心の高まりを背景に、旅館経営を新たなビジネスチャンスとして捉える動きが広がっています。個人の独立開業はもちろん、法人による新規参入や投資家の事業多角化も進んでいます。
しかし、経営をスムーズに進めるためには、必要な知識を得て計画的にスケジュールを立てなければなりません。
本記事では以下のような項目を解説します。
・旅館経営者の業務内容は? ・経営に必要な許可や資格は? ・旅館業で利益を上げるために考えておきたいことは? ・初期費用の目安や準備方法は? |
経営で失敗しないためにも、ぜひ最後までご覧ください。
旅館経営を始める前に知っておくこと
旅館経営を始める前に知っておくべきことは、主に以下の2つです。
- 旅業の定義とホテルとの違い
- 旅館経営者の主な業務内容
それぞれ詳しく解説します。
旅館業の定義とホテルとの違い
旅館業は旅館業法において「宿泊料を受けて人を宿泊させる営業」と定義されます。
旅館業全体には洋式構造が主体のホテルの他に、旅館(和式の構造設備が主)、簡易宿所(宿泊させる部屋を多数人で共用する構造設備)、下宿(一月以上の期間を単位とする宿泊)などが含まれます。
またホテルと旅館の一般的な違いは、建物の構造、料金体系、サービス内容、利用目的などです。旅館は和式構造が主体でおもてなしのサービスを重視、ホテルは洋式構造が主体でプライバシーを重視したサービスを提供すると理解しておきましょう。
旅館経営者の主な業務内容
旅館経営者の業務内容は、主に以下の通りです。
業務 | 内容 |
オペレーション管理 | ・フロント部門:顧客のチェックインやアウト、情報提供、苦情対応などを統括 ・客室部門:清掃品質やアメニティの管理 ・調理部門:食材の調達、メニュー開発、提供までを監修 ・浴場部門:清潔な環境と安全な入浴を維持管理 |
営業・マーケティング | ・旅行代理店や企業連携による団体客の誘致 ・個人客向けの宿泊プランの企画立案や需要と供給に応じた価格設定 ・最新型の予約管理システムやDXの推進 ・自社サイト、OTA、SNSを活用した集客戦略の策定 |
施設管理 | ・建物や設備の定期的な点検および修繕計画の立案 |
バックヤード | ・経理業務:日々の収支管理、予算策定、資金繰りなど財務全般の適正化 ・人事労務:従業員の採用、育成、評価、給与計算、福利厚生などの管理 |
旅館経営者の業務は多岐にわたり、旅館全体の円滑な運営と収益向上を担います。経営者として各セクションの監修はもちろん、時には自らが現場に立ちリーダーシップを発揮するといったことも必要です。
旅館経営に必要な許認可
旅館経営に必要な許認可を、以下の2つに分けて解説します。
- 旅館業法に基づく基本許可
- サービス提供に必要な許認可
それぞれ詳しく見ていきましょう。
旅館業法に基づく基本許可
旅館業を営むには旅館業法に基づき、都道府県知事(保健所設置市や特別区では市長または区長)の許可が必要です。施設の構造設備や衛生管理基準などが法令に適合しているか審査された上で付与されます。
申請から許可までの期間はケースによって異なりますが、一般的には数週間から1か月程度です。ただし学校等の施設が近隣にある場合の意見照会や、消防法関連の手続きなどで時間を要するケースもあります。
なお旅館業の許可区分は、以下の4種類に分類されます。
- ホテル営業:洋式の構造設備を主とする施設
- 旅館営業:和式の構造設備を主とする施設
- 簡易宿所営業:客室を多数人で共用する構造設備(ゲストハウスやカプセルホテル)
- 下宿営業:1か月以上の期間を単位とする宿泊施設
これらの区分により施設の構造設備基準などが異なるため注意しましょう。
参考:旅館業法について | 民泊制度ポータルサイト「minpaku」
サービス提供に必要な許認可
旅館でのサービス提供には旅館業法に基づく基本許可の他に、提供するサービス内容に応じて以下のような許認可も必要です。
サービス内容 | 必要な許認可 |
レストラン、食堂、喫茶室 | ・飲食店営業許可宿泊客に食事を提供する場合は食品衛生法に基づく飲食店営業許可が必要。宿泊とは別の営業とみなされ、保健所への申請と施設の衛生基準適合が求められる。 |
酒類の提供や販売 | ・酒類販売業許可売店等の土産物として未開栓のお酒を販売する場合は、酒税法に基づく酒類販売業許可(一般酒類小売業免許など)が必要。ただし宿泊客にその場で飲用として提供する分には、飲食店営業許可の範囲内となる場合が多い。 |
日帰り入浴 | ・公衆浴場許可日帰り入浴など宿泊客以外に大浴場を提供する場合は公衆浴場法に基づく公衆浴場営業許可が必要。保健所に申請し施設の構造設備や衛生管理基準などが厳しく審査される。 |
その他 | ・温泉法に基づく「温泉利用許可」温泉を浴槽で利用する場合(大浴場、客室露天、足湯など)や温泉水を運搬して利用する場合など、温泉を公共の浴用または飲用に供する全てのケースで必要。 |
旅館経営に必要/役立つ資格
旅館経営に必要な資格や役立つ資格をいくつか紹介します。
- 防火管理者
- 食品衛生責任者
- 語学資格
- サービス・マナー系の資格
それぞれ詳しく解説します。
防火管理者
旅館経営において「防火管理者」の選任は消防法で義務付けられた資格です。火災予防と火災発生時の被害軽減のための責任者を担います。
主な業務内容 | 消防計画の作成・届出、消火設備や避難経路の点検・維持管理、避難訓練の実施、従業員への防火教育など。 |
必須になる要件 | 旅館は「特定防火対象物」に該当し収容人数30人以上、または延べ面積300㎡以上の場合に防火管理者の選任が義務付けられる。施設の規模によって「甲種」または「乙種」の資格が必要。 |
取得方法 | 消防署や消防庁が実施する「防火管理講習」を修了すること。甲種は2日間、乙種は1日間の講習で最後に簡単な修了試験がある。 |
食品衛生責任者
施設内で食事を提供する旅館では、食品衛生法に基づいて「食品衛生責任者」の選任が義務付けられています。
主な業務内容 | 食材の適切な管理、調理器具の洗浄・消毒、従業員の健康・衛生管理指導、施設の衛生維持、衛生管理計画の策定・実施など。 |
必須になる要件 | レストランやルームサービスなどで食事を提供する場合は、1施設につき1名以上の食品衛生責任者が必要。 |
取得方法 | 各都道府県の食品衛生協会などが実施する「食品衛生責任者養成講習会」を修了する。なお、調理師や栄養士などの資格を持っている場合は受講不要。 |
語学資格
インバウンド客の受け入れに向けて、語学系の資格を取得するのも効果的です。以下に役立つ資格を2つ紹介します。
資格 | おすすめの理由 |
TOEIC L&R TEST | インバウンド対応はもちろん、スタッフ全体の英語力向上を促す上でも自身のスコアを上げておくことで模範になる。 |
中国語検定 | 訪日の割合が大きい中国・香港・台湾からのインバウンドに対し顧客満足度の向上につながる。 |
サービス・マナー系の資格
「おもてなし」が重視される旅館では、サービスやマナー系の資格も取得しておきましょう。おすすめの資格を2つ紹介します。
資格 | おすすめの理由 |
サービス接遇検定 | 文部科学省後援の検定。旅館のフロント業務、客室サービス、料飲サービスなど、あらゆる接客場面で役立つ。 |
ホテルビジネス実務検定 (H検) | 宿泊部門、料飲部門、宴会部門など、ホテル・旅館の幅広い業務に関する知識を体系的に学べる。経営者ならマネジメントレベル推奨。 |
旅館経営で利益を上げるには
旅館経営で利益を上げるには、以下の3つのポイントを押さえることが重要です。
- 旅館ビジネスの収益構造
- 旅館経営を成功させるコツ
- 旅館経営で失敗しやすいポイント
順に解説します。
旅館ビジネスの収益構造
旅館ビジネスの収益構造は、多岐にわたる収入源とコスト要素から成り立っています。収入源の柱は、顧客からの宿泊料です。これに加えレストランでの飲食や売店での物販、宴会場の利用料などが収入源です。
一方、支出となるコストは主に変動費と固定費に分けられます。それぞれの代表例は以下の通りです。
変動費 | 固定費 |
・原材料費(食材費など) ・消耗品費(アメニティなど) ・OTA手数料 | ・人件費(給与、福利厚生) ・賃料、リース料 ・減価償却費 ・光熱費・広告宣伝費 |
なおWebサイトからの予約が主流となった近年では、直接予約による手数料削減も収益改善策の1つとなっています。
これらの収入とコストのバランスを最適化し稼働率向上や顧客単価アップを図ることが、旅館経営で利益を上げるためのポイントです。
旅館経営を成功させるコツ
旅館経営を成功させるには「ターゲティング」「リピーター獲得&CS(顧客満足度)向上」「集客チャネルの多様化」の3つを軸に戦略を練るのがコツです。以下にそれぞれのポイントを解説します。
項目 | やるべきこと |
顧客ターゲティング | ・ターゲットを個人客、団体客、国内旅行客、インバウンド客(特にアジア圏)など絞り込む ・ターゲットに合わせた宿泊プランやサービスを開発 ・SNSを活用した情報発信や動画コンテンツなどの制作 |
リピーター獲得&CS向上 | ・地元の食材を活かした料理提供 ・地域の文化体験プログラムなど「体験」を提供 ・口コミ管理、サンキューレター、割引クーポン配布など |
集客チャネルの多様化 | ・公式サイトの利便性向上 ・旅行代理店や法人との連携 ・観光協会との連携 |
旅館経営で失敗しやすいポイント
旅館経営で失敗しやすいポイントは多岐にわたります。代表的な失敗例は以下の通りです。
失敗例 | 原因 |
稼働率の低迷 | ・魅力的なプランの欠如 ・マーケティング不足 ・競合との差別化不足 など |
設備の老朽化 | ・客室、共用部、水回りなどの経年劣化によるCS低下 |
人材確保と育成 | ・人手不足によるサービス品質の低下 ・ES(従業員満足度)低下による人材離れ ・教育体制の不足 |
IT化の遅れ | ・予約システム、顧客管理、SNS活用など、ITを駆使した運営ができておらず、競合に後れを取っている |
過剰投資や過小資本 | ・開業時の過剰投資で資金繰りが苦しくなる ・十分な運転資金がなく、予期せぬトラブルに対応できない |
旅館開業までのステップ
旅館開業までのステップは、大きく分けて以下の4つです。
- 用地の選定・物件の取得
- 自治体への相談・許可申請
- 設計〜工事〜設備の導入
- スタッフ採用〜研修・予約システム構築
順に解説します。
ステップ1:用地の選定・物件の取得
用地の選定ではターゲット顧客層やコンセプトに合致した立地を選定するのが重要です。なお物件は新築用地か既存の建物を改装するかの選択肢があります。
既存物件なら旅館業法や建築基準法といった法規制や、耐震性などの設備の状態を詳細に調査します。取得費用だけでなく改修費用や維持管理費も考慮し、資金計画に見合った物件を選定しましょう。
ステップ2:自治体への相談・許可申請
旅館開業には管轄の都道府県知事への許可申請が必須です。手続きに先立ち、建物の設計段階から地域の保健所へ事前に相談します。
相談時には構造設備の平面図などを持参し、基準を満たしているか確認を受けます。また消防署や建築指導課など各部署へも相談し、必要な要件を満たさなければなりません。
関係機関との調整を経て最終的に営業許可申請を行い、保健所による現地調査で認められれば営業許可が交付されます。
ステップ3:設計〜工事〜設備の導入
設計の段階では、まず旅館業法や消防法などの法令を遵守しつつ、ターゲット層に響く空間デザインを設計士と具現化しましょう。
設計が固まれば建設会社を選定し、着工します。進捗状況の確認と並行して、施設内の備品や設備の選定と導入も進めましょう。全ての設備が整い各種検査に合格すれば、営業開始の準備が整います。
ステップ4:スタッフ採用〜研修・予約システム構築
旅館のコンセプトに合った人材を募集し、理念や接客マナー、緊急時対応、各部門の業務に関する徹底した研修を実施します。インバウンド対応のために、多言語対応の人材も揃えると安心です。
また人材育成と並行して、予約システム構築も進めます。専用アプリといった自社予約を促すシステムや、顧客管理システム(CRM)の導入などを検討しましょう。
初期費用の目安と資金調達方法
旅館経営における初期費用は新規開業か既存施設の取得かで違いはありますが、一般的に数千万円から数億円以上が目安です。内訳は、用地・物件取得費、建築・改修費、設備・備品費、運転資金、各種許認可費用などがあります。
資金調達においては、自己資金を基本に不足分は融資でまかなうのが一般的です。金融機関によっては旅館業向けの融資商品もあるので、必要に応じて検討しましょう。
また近年注目されるのが、M&A(合併・買収)による事業承継です。既存の旅館を買い取る形で開業するため、新規で土地を探し建物を建てるよりも初期費用を抑えられます。
ただし、簿外債務や隠れた修繕箇所などがないか詳細なデューデリジェンス(資産査定)が不可欠です。自社にノウハウがない場合は専門家に相談しましょう。
旅館経営のことは専門家に相談!
旅館経営で不安がある方は、実績のある専門家に相談するのをおすすめします。
旅館経営は立地選定から日々の運営、そして法令遵守に至るまで複雑で多岐にわたる専門知識が求められます。これらの要素を経営者のみで管理し、発生しうるリスクに対応していくのは困難です。
例えば開業前の段階で事業計画が不十分だったり資金計画に無理があると、後々の資金繰りが苦しくなり経営を圧迫します。加えて、法改正への対応の遅れや従業員とのトラブル、同業他社との価格競争など予期せぬ問題が突然発生することも少なくありません。
専門家がいれば、事業計画の策定支援から効果的なマーケティング戦略の立案、そして日々の運営改善に至るまで知見に基づいたアドバイスを受けられます。
リロホテルソリューションズでは「90日で黒字化」をスローガンに、ターンアラウンドを通じて全国40か所以上のリゾート地や過疎地の宿泊施設を運営してきた実績があります。
旅館経営に少しでも不安がある方は、ぜひお気軽にご相談ください。
まとめ
旅館経営は多額の初期費用に加え、人件費や光熱費といったランニングコストも大きなリスクとなります。開業当初に過剰な投資をしてしまい、運転資金が不足するケースは少なくありません。
たとえ経営が順調に進んでいても、予期せぬ事態が発生すれば稼働率が急激に低下し、経営を大きく揺るがす可能性があります。
多額の負債を負い旅館経営を失敗させないためにも、ぜひ知見のある専門家に相談しましょう。
リロホテルソリューションズには、全国でさまざまな宿泊施設の運営を支えてきた各部門のプロが在籍しています。予算や状況に応じたオーダーメイドのプランを提案いたしますので、ぜひお気軽にご相談ください。

【監修者情報】
株式会社リロホテルソリューションズ
「90日で黒字化」を目標に、全国リゾート地・過疎地の宿泊施設を運営してきたプロ集団です。
あらゆる課題を抱える宿泊施設様のご支援を行い、売上の確保だけでなく、収益確保や運営効率まで一貫したご支援を行います。