【初心者向け】ホテルのPMSとは?役割と導入メリット、選び方について解説

ホテル経営におけるPMSの重要性
「人手が足りずスタッフの負担が大きい」「清掃担当との情報共有がうまくいかない」——こうした悩みを抱えるホテルや旅館の経営者は少なくありません。
これらの課題を解決してくれるのが、今や宿泊施設の運営に欠かせない存在となっている“PMS(プロパティ・マネジメント・システム)”です。
まず、人手不足が深刻化する中、効率的な業務運営が求められています。さらに、顧客ニーズが多様化し、個別対応が難しくなっているため、柔軟で迅速な対応ができるシステムが必要です。加えて、ホテル業界でもDX(デジタルトランスフォーメーション)の波が押し寄せ、IT活用がますます重要になっています。
PMSは、これらの課題に対応するための重要なツールです。効率的な予約管理や顧客対応、売上分析などが一元化され、スタッフの負担が軽減されるうえ、サービスの質も向上します。
さらに、PMS導入は「経営に失敗しない」ための一手として、業務の安定性と成長を支える基盤としても重要です。これにより、経営者は確実な経営判断を下し、持続可能な運営を実現できます。
ホテルのPMSとは?
PMSは、現代のホテル運営に欠かせない基幹システムです。まずは、その定義や目的、ホテル内で果たす役割について見ていきましょう。
PMSの定義と目的
PMS(Property Management System/プロパティ・マネジメント・システム)は、ホテルの予約管理、顧客管理、フロント会計など、ホテル運営に関わる情報を一元化するシステムです。
従来は手作業やExcelなどで分散管理されていた業務を、PMSは一つの画面上でスムーズな処理を可能にします。これにより業務の効率化だけでなく、ヒューマンエラーの防止にもつながります。
PMSは、単なる管理ツールではなく、ホテル運営の基盤を支える中心的存在です。
PMSがホテル運営の「心臓部」と呼ばれる理由
PMSは、ホテル運営において各部門の情報を集約・連携する“ハブ”のような存在です。
予約・フロント・清掃・経理といった各部署の情報がリアルタイムで共有されることで、無駄なやり取りや行き違いを防ぎ、業務全体がスムーズに流れます。情報が分断されないことで、経営判断にもスピードと正確性が生まれます。
そのため、PMSは「ホテルの心臓部」とも言われており、日々の運営に欠かせない存在です。
ホテルDXにおけるPMSの役割
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタル技術を活用して業務やサービスを抜本的に変革し、付加価値を生み出す取り組みのことです。
観光業界でも、DXによる生産性向上と顧客満足度の強化が重視されており、業界全体で広域での収益最大化に向けた取り組みが提唱されています。
参照:国土交省観光庁|観光DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進
そのホテルDXにおいて、中心的な役割を果たしているのがPMSです。例えば、サイトコントローラーやCRM、スマートロックなどと連携し、リアルタイムで情報を共有・活用できる環境を構築します。これにより、宿泊者一人ひとりに合わせた対応が可能となり、サービスの質が向上します。
PMSを導入しないままでは、変化の激しい市場に取り残され、競争力の低下につながるでしょう。今後のホテル経営において、PMSはDX推進の土台として重要です。
ホテルのPMSでできること
PMSは単なる予約システムではなく、ホテル運営のあらゆる業務を支える多機能なツールです。ここでは、PMSで具体的にできることを6つ紹介します。
- 予約管理機能
- フロント会計機能
- 顧客管理(CRM)機能
- 客室管理機能
- 売上管理・分析機能
- 外部システム連携
順に説明します。
予約管理機能
PMSでは、電話予約や自社ホームページ、OTA(じゃらんや楽天トラベルなどのオンラインエージェント)からの予約情報を一括して管理できます。
予約ごとの残室数や料金プランもリアルタイムで確認でき、情報の入力・変更・キャンセル対応まで可能です。各チャネルの情報が自動で反映されるため、ダブルブッキング(※)のリスクも抑えられ、フロント業務の効率が格段に向上します。
※1つの客室や部屋に対して、同じ日時で2件以上の予約が入ってしまう状態
フロント会計機能
チェックイン・チェックアウトの手続きをはじめ、宿泊料金やレストラン・電話代などの追加利用分も含めて、自動で合計金額を計算できます。そのまま請求書の作成や領収書の発行も可能です。
現金、クレジットカード、電子マネーなど、多様な決済手段にも対応しており、スムーズな会計処理が行えます。フロント業務の正確性とスピードを両立できるのが、この機能の魅力です。
顧客管理(CRM)機能
宿泊者の氏名や連絡先、宿泊履歴、好み、アレルギーなどの個別情報をPMS上で記録・管理できます。蓄積された情報は、リピーターの傾向分析やメルマガ配信といったマーケティング活動にも活用可能です。
顧客の好みに合わせたサービス提供を行うことで、満足度向上や再利用の促進が期待できます。PMSのCRM機能は、接客の質を高め、顧客満足度を上げるための重要な要素です。
客室管理機能
PMSでは、清掃中・清掃済み・チェックアウト済みといった各客室の状態をリアルタイムで把握できます。フロントとハウスキーピング部門が情報を共有できるため、清掃の進行状況を確認しながら効率的なアサイン(客室割り当て)が可能です。
無駄な連絡や待機時間を減らし、業務の流れがスムーズになるため、客室運用の最適化に欠かせない機能です。
売上管理・分析機能
日別・月別・プラン別など、売上データの集計・分析が簡単にできます。稼働率、ADR(平均客室単価)、RevPAR(販売可能客室あたりの収益)など、経営判断に欠かせない指標も自動で算出されるため、数字に基づいた戦略の立案が可能です。
感覚ではなくデータで経営を見通すために、PMSの分析機能は大きな武器になります。
外部システム連携
PMSは、サイトコントローラー、POSレジ、会計ソフト、スマートロック、セルフチェックイン用キオスク端末など、多様な外部システムとの連携が可能です。これにより、情報の二重入力を防ぎ、業務効率が飛躍的に向上します。
各システムが連動することで、より一貫性のあるサービス提供や管理が可能となり、ホテル全体のDX推進にもつながります。
PMSとサイトコントローラーの違いとは?
ホテル運営において、PMSとサイトコントローラーは混同されがちです。それぞれの役割や違い、そして連携の重要性を整理して理解しておきましょう。
サイトコントローラーの役割
サイトコントローラーは、複数のOTA(じゃらん、楽天トラベル、Booking.comなどのオンラインエージェント)や自社予約ページにおける残室数や料金を一元管理できるシステムです。各予約サイトの管理画面を個別に操作する手間を省き、情報を一括で更新・同期できる点が大きな特長です。
販売機会の最大化や、オーバーブッキング(※)の防止を目的としており、特にオンライン販売の比率が高い施設にとっては、欠かせない存在といえます。価格調整や在庫配分もリアルタイムでできるため、販売戦略の柔軟性も高まります。
※実際の部屋数よりも多くの予約を受け付けてしまうこと
PMSとサイトコントローラーの連携の重要性
PMSが、ホテル内部の予約・会計・顧客情報などを管理するシステムであるのに対し、サイトコントローラーが担っているのは、外部の予約チャネルとつながる役割です。両者を連携させることで、サイトコントローラーから受けた予約情報が自動でPMSに取り込まれ、在庫情報も即時に更新されるようになります。
これにより、人的なミスやタイムラグによるトラブルを防げるほか、フロント業務の負担も大きく軽減されます。最大限の業務効率と顧客対応の精度を実現するには、この連携が不可欠です。
ホテルにPMSを導入する具体的なメリット
PMSを導入することで得られる効果は、単なる業務効率化にとどまりません。ここでは、代表的な導入メリットを5つ紹介します。
- フロント業務の大幅な効率化と生産性向上
- 顧客満足度の向上
- 売上向上への貢献
- データに基づいた的確な経営判断
- ペーパーレス化と情報共有の円滑化
順に説明します。
フロント業務の大幅な効率化と生産性向上
予約の入力、チェックインやチェックアウト、会計処理といったフロント業務をPMSで自動化すれば、大幅な時間短縮につながります。また、手作業による入力ミスや計算間違い、情報伝達の漏れといったヒューマンエラーも減らせます。
スタッフは煩雑な処理に追われることなく、本来注力すべき接客やサービス提供に集中できるでしょう。業務負担が軽減されることで従業員満足度も上がり、結果として、業務の質と生産性の両方が向上します。
顧客満足度の向上
チェックイン・チェックアウトの待ち時間を減らすことで、顧客にとってストレスの少ないステイ(滞在)が可能になります。
PMSに登録された顧客情報を活用すれば、アレルギーや好みに配慮したパーソナライズ対応も可能です。さらに、過去の宿泊履歴をもとに適切でタイムリーなサービスを提供できるため、「自分を覚えてくれていた」と感じるリピーターも増えやすくなります。
顧客対応の質が上がることで口コミや評価も向上し、新規集客にも良い影響を与えるでしょう。
売上向上への貢献
PMSを使えば、残室数や予約状況を正確に管理できるため、売り逃しや予約を重複してしまうダブルブッキングといったトラブルを防げます。
また、日々の稼働率や需要に応じて料金を調整するレベニューマネジメントにも役立ちます。さらに、顧客管理機能を活用することで、再来訪を促すキャンペーンやターゲットを絞ったアプローチが可能になり、売上の最大化につながるでしょう。
閑散期でも適切な販促がしやすく、収益の平準化にも寄与します。
データに基づいた的確な経営判断
PMSには、売上や稼働状況などをリアルタイムで確認できる機能が搭載されており、日別・月別・プラン別のレポートも自動で作成されるため、経営の現状を可視化しやすくなります。数字をもとにした課題の発見と改善策の立案がしやすくなり、勘や経験だけに頼らない的確な判断が可能になります。
時系列での変化や季節ごとの傾向も把握でき、より戦略的な意思決定ができるでしょう。
ペーパーレス化と情報共有の円滑化
PMSの導入によって、紙での予約台帳や清掃リストなどから脱却でき、業務のデジタル化が進みます。さらに、フロント・清掃・経理などの部署間で情報をリアルタイムに共有できるため、連携ミスや重複作業も減らせるでしょう。
紙資料の保管や管理の手間も不要になり、業務のスピードと正確性が向上します。データの検索性も高まり、過去の履歴確認も容易です。
PMS導入前に知っておきたい注意点
PMSは非常に便利なツールですが、導入には一定の準備と確認が必要です。後悔しない選択のために、事前に把握しておくべきポイントを5つ紹介します。
- 導入・運用コストの発生
- システム選定の難しさ
- 従業員への教育・トレーニング
- 既存システムからのデータ移行
- システム障害やセキュリティのリスク
順に見ていきましょう。
導入・運用コストの発生
PMSの導入には、ライセンス料・初期設定費用・機器代などの初期費用に加え、月額または年額での利用料が発生します。導入前には、サービスごとの価格体系や機能を比較し、費用対効果をしっかり見極めることが大切です。
特に、クラウド型とオンプレミス型では、初期費用や保守費用のバランスが異なるため、自社に適したコスト構造を理解して選択する必要があります。導入後の運用コストも含めて長期的に試算し、安さだけで判断しない姿勢が求められます。
システム選定の難しさ
PMSは、機能・価格・サポート体制・連携のしやすさなど、比較すべきポイントが多くあります。自社の規模や業態、求める運用スタイルに合わないシステムを選ぶと、逆に非効率になる可能性もあるため注意が必要です。
最適なシステムを選ぶには、関係部署の意見を集約しながら慎重に検討を進めることが重要です。
従業員への教育・トレーニング
新しいPMSに切り替える際、従業員の習熟にはある程度の時間と労力がかかります。導入前に操作方法や運用ルールを丁寧に説明し、導入後も継続的なトレーニングを行うことで現場の混乱を防げます。
マニュアルの整備や問い合わせ対応の体制も整えておくと、導入後の定着がスムーズになるでしょう。
既存システムからのデータ移行
これまで使っていた台帳や、旧システムからのデータをPMSに移す作業は、地道で正確性が求められます。顧客情報や予約履歴など、大切なデータを確実に移行できるよう、移行サポートの有無や内容を事前に確認しておきましょう。
移行に伴う一時的な業務停止や影響も想定し、事前にスケジュールを調整することが不可欠です。
システム障害やセキュリティのリスク
PMSは、日々の業務を支えるシステムだからこそ、障害発生時の対応体制が整っているかを確認することが重要です。また、顧客情報を扱う以上、セキュリティ対策は必須です。
万が一に備えたバックアップ体制や個人情報保護方針の明確化など、信頼性の高い対応が可能かどうかを慎重に見極めましょう。
自社に合ったPMSを選ぶための5つのポイント
PMSは高機能であるほど良いわけではありません。自社の規模や運用方針に合ったシステムを選ぶことが、導入成功の鍵となります。選ぶ際に確認すべきポイントは、下記の5つです。
- ホテルの規模や種類に合っているか
- 必要な機能が搭載されているか
- 料金体系と予算
- 操作性とサポート体制
- 他のシステムとの連携性・拡張性
順に見ていきましょう。
ホテルの規模や種類に合っているか
PMSには、小規模の民泊やペンション向け、ビジネスホテル特化型、大規模リゾート向けなど、それぞれ得意とする運用領域があります。自社の業態や運営スタイルに合ったものを選ばないと、機能の過不足が生じる可能性があります。
必要な機能がちょうどよくフィットしているかを確認しましょう。
必要な機能が搭載されているか
予約・会計・顧客管理などの基本機能に加えて、宴会場の管理やレストランPOSとの連携など、自社にとって必要な追加機能が備わっているかを確認することが重要です。
逆に必要以上の機能があると使いづらくなることもあるため、よく見極めることが必要です。
料金体系と予算
導入にかかる初期費用と、月額・年額などのランニングコストが、予算内に収まるかどうかを事前に確認しましょう。従量課金制、固定料金制など料金体系はサービスによって異なります。
また、機能の追加やカスタマイズにかかる料金の確認も必要です。シンプルで明瞭な料金プランであるかも選定のポイントになります。
操作性とサポート体制
どれだけ高機能でも、現場スタッフが使いこなせなければ意味がありません。デモ画面やトライアルを活用し、直感的に操作できるかどうかを確認しましょう。
さらに、導入時の設定・データ移行サポートや、導入後のサポート体制も要チェックです。電話やチャット、メールでのサポート対応時間、マニュアルの有無なども含めて、どこまで手厚く対応してもらえるかを確認しておく必要があります。
他のシステムとの連携性・拡張性
現在使用している、あるいは将来的に導入したいサイトコントローラーや会計ソフト、スマートロックやモバイルオーダーなどとスムーズに連携できるかどうかは、選定時に必ず確認しましょう。
また、今後の事業拡大や新サービスへの対応を見据えた際に、柔軟に機能追加ができる拡張性があるかも重要なチェックポイントです。
PMSは一度導入すると長く使うことになるため、将来の変化にも対応できる柔軟さが求められます。
まとめ
ホテル経営においてPMSは、業務効率化と顧客満足の向上を同時に実現できる、まさに運営の要となる存在です。予約・会計・顧客情報などを一元管理できることで、スタッフの負担軽減や売上アップにもつながります。また、ホテルDXの流れの中で他システムとの連携も重要度が増し、PMSの必要性はますます高まっています。
これからホテルを開業する方にとって、PMSは「導入すべきか迷うもの」ではなく、「あらかじめ備えておくべき経営の基盤」と言えます。PMSがなければ、予約管理や客室清掃、会計業務といった日々の運営がすべて手作業になり、開業後すぐに非効率さやミスによるトラブルが発生しかねません。
「なんだか難しそう」「我々に使いこなせるか不安」と感じる方もいるかもしれませんが、導入や初期設定の段階では、専門家や導入サポート企業に頼ることで、スムーズかつ安心してスタートするという選択肢もあります。
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