ホテル経営を数字で見える化!成果を出すKPI設定と運用のコツ
ホテルの経営者であれば、感覚に頼るのではなく、数字やデータに基づいた運営を意識すべきです。
本記事ではホテル経営を数字で見える化するために重要な「KPI設定」について、以下を中心に解説します。
| ・KPIの意味と目的・KPI設定のメリット・KPI設定の手順・KPIを現場に浸透させるコツ |
現状の目標をうまく実務に落とし込めていなかったり、そもそも目標が適切かわからないという方はぜひ最後までご覧ください。
ホテル経営におけるKPIとは?
ホテル経営におけるKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)とは、設定した目標を達成するための進捗を数値で可視化する指標です。単に売上や利益といった最終的な結果だけでなく、その結果を生み出す業務プロセスの質や、顧客満足度(例:リピート率、口コミ評価スコアなど)といった多角的な要素が評価対象です。
KPI設定により、目標達成に向けた具体的な改善点を特定しやすくなります。例えば、顧客満足度のKPIが低い場合には、チェックイン時間を短縮したり清掃品質を向上させるなど、プロセスレベルでの対策を講じることができます。KPIを軸に効率的かつ実効性の高い経営を実現するのが目的です。
KPIがホテル経営にもたらす3つのメリット
KPIがホテル経営にもたらすメリットは、おもに3つです。
- 課題の可視化と改善点の明確化
- 全スタッフの目標共有と意識統一
- 根拠のある迅速な意思決定
それぞれ順番に解説していきます。
メリット1:課題の可視化と改善点の明確化
KPIを導入すると「稼働率は高いが利益が伸びない」「リピーターが定着しない」といった漠然とした課題に対し、具体的な数値を根拠に分析できるようになります。
例えば「利益が伸びない」という課題なら、客単価を示すKPIの低さや、部門ごとのコストKPIの悪化として原因を特定できます。また、「リピーター定着」という課題であれば、顧客満足度KPIの低さやサービスの評価スコアの低さとして捉えることで、具体的な改善点(例:料飲部門のメニュー改善、フロントの接客強化など)が明確になるでしょう。
KPIによって課題を可視化することで改善点が明確になり、感覚ではなくデータに基づいた効率的な対策を講じることができます。
メリット2:全スタッフの目標共有と意識統一
KPIを導入することで、ホテル全体のスタッフが共通の目標を持ち、意識も統一されます。
例えば「顧客満足度向上」のような曖昧かつ抽象的な目標では、部門やスタッフごとに解釈が異なり行動にバラつきが生じがちです。「リピート率〇%の達成」や「チェックイン処理時間を〇分以内にする」といった、具体的で数値化されたKPIを掲げることで、全スタッフが同じ方向性を持って日々の業務に取り組むことができます。
具体的な目標数値が行動基準となるため、清掃スタッフは客室の清潔さをより意識したり、フロントスタッフは丁寧かつ迅速な対応を心がけるなど、組織全体で目標達成に向けた一貫性のある行動が促進されます。
メリット3:根拠のある迅速な意思決定
KPIはホテル経営における重要な判断を、データに基づき迅速に行える点が強みです。
例えば競合ホテルが値下げをした際に、自ホテルのRevPAR(販売可能客室数あたりの売上)や顧客満足度KPIなどのデータが健全であれば、価格競争ではなくサービスの質で差別化を図るという判断を下せます。
また新たな設備投資を検討する際も、投資対効果を示すKPIの予測値や既存の設備の稼働率・収益性のデータを根拠に判断可能です。客観的な数値の裏付けをもとにスピーディかつ論理的な経営判断を下せるため、市場変化への対応力が向上します。
ホテル経営の成果を可視化する5つの重要KPI
ホテル経営の成果を可視化するために重要なKPIは、おもに以下の5つです。
- RevPAR
- OCC
- ADR
- リピート率
- 自社サイト比率
1つずつ詳しく解説します。
RevPAR
RevPAR(Revenue Per Available Room:販売可能客室数あたり収益)は、客室の稼働率と客室単価(ADR)の両方を反映させることで、ホテルの収益力を総合的に測る重要指標の一つです。以下の計算式で算出します。
| RevPAR=ADR(客室平均単価)×OCC(客室稼働率) |
RevPARが低い場合、単に稼働率(OCC)を上げるために客室単価(ADR)を下げすぎると結果的にRevPARの伸びを妨げます。経営においては、ADRを維持・向上させつつ稼働率を高めるという、単価と稼働率の最適なバランスを見つけるのが重要です。
適切な需要予測に基づき、柔軟な価格設定や付加価値の高いサービスを提供することでRevPARの最大化を目指します。
関連記事:>>RevPAR(レブパー)とは?ホテル経営の収益力を測る指標を徹底解説!
OCC
OCC(Occupancy Rate:客室稼働率)は、ホテルが販売可能な客室のうちどれだけが実際に利用されたかを示す、運営効率の基本的な指標です。OCCが高いほど、客室在庫を効率良く販売できていると判断されます。なお、OCCは以下の計算式で算出します。
| OCC=販売された客室数 ÷ 販売可能な全客室数×100 |
ただしOCCの高さだけを追求しすぎると、「満室」を実現するために客室単価(ADR)を極端に下げる戦略に偏りがちです。売上は上がるものの利益が圧迫され、人件費や変動費を賄いきれなくなる「ワーキングプア」のような収益性の低い状態に陥る可能性があります。
そのため、ホテル経営ではOCCとADRをかけて算出するRevPARを重視します。高い稼働率と適正な価格設定のバランスを取ることが不可欠です。
関連記事:>>ホテルの稼働率(OCC)とは?経営成功の鍵となる稼働率向上のポイントを解説!
ADR
ADR(Average Daily Rate:客室平均単価)は、販売された客室1室あたりの平均販売価格を示す指標です。ホテルのブランド価値や、レベニューマネジメント(需要を予測し価格を変動させることで収益を最大化する経営管理手法)における価格設定の適切性を測る上で中核となる指標です。ADRの計算式で求められます。
| ADR=総宿泊売上 ÷ 販売客室数 |
例えば高付加価値な宿泊プランの販売やチェックイン時のアップセルの促進などは、ADRを上げるのに有効な手法です。
ただしADRの上昇を追求しすぎると、顧客の価格感度が高まり客室稼働率(OCC)が下がる可能性があります。そのためADRの底上げは、OCCとの兼ね合いを見つつ進めるのが基本です。
なおOCCの項目でも説明した通り、最終目標はADRとOCCのバランスによって算出されるRevPARの最大化です。
関連記事:>>ホテルのADRとは?計算方法から収益を最大化する活用法まで徹底解説!
リピート率
リピート率は、ホテルを利用した顧客が再度宿泊した割合を示す指標です。顧客満足度の結果を直接的に示しており、リピート率の高さは顧客が提供されたサービスや体験に満足していることを表します。
またリピーターは、ホテルの安定経営に不可欠な存在です。新規顧客の獲得コストは既存顧客の維持コストに比べて5倍かかる(1:5の法則)と言われており、リピーターの確保は費用対効果が高い集客手段です。安定したリピーター層は閑散期や市場変動時にも一定の稼働率を支え、収益基盤を強化します。
なおリピート率を向上させるためには、顧客データを重視します。顧客データをもとにリピーター限定の特別なオファー(例:優先チェックインや割引優待など)を提供し、顧客のロイヤルティを深め再来訪を促すのがポイントです。
関連記事:>>リピーターを増やすには?ホテル経営を安定させるためのポイントとは
自社サイト比率
自社サイト比率(直販比率)は、公式サイトから直接予約された割合を示す指標です。
OTA経由の予約は一般的に送客手数料が発生しますが、公式サイトからの直販はこのコストを削減できるため、比率の向上は利益率の改善に直結します。また、顧客データを自社で直接管理・蓄積できるため、詳細な分析に基づいたマーケティングや、リピート促進のためのアプローチ(CRM:顧客関係管理)を行いやすい点も大きなメリットです。
なお比率を高めるには、「ベストレート保証(公式サイトが最安値)」の導入や会員限定特典の付与など、顧客が公式サイトを選ぶ明確な動機付けを行うことが重要です。
自社に合ったKPIを設定するためのステップ
自社に合ったKPIを設定するためのステップは、以下の通りです。
- STEP1:ホテルの理想の姿(KGI)を定める
- STEP2:KGIから逆算してKPIを選択する
- STEP3:達成可能で具体的な目標数値を設定する
順に詳しく見ていきましょう。
STEP1:ホテルの理想の姿(KGI)を定める
まずはKPIを設定する前に、ホテルが最終的に目指す「理想の姿」となるKGI (Key Goal Indicator) を明確に定めます。経営戦略の最終ゴールがKGIです。
KGIは「年間売上〇〇円達成」や「エリア内での顧客満足度No.1獲得」のように、具体的かつ計測可能な目標を設定します。曖昧な表現では目標達成に向けた施策や進捗の評価ができません。
またKGIを現実的なものにするためには、自ホテルの強みと弱み、外部の市場機会や脅威(競合、トレンドなど)を、SWOT分析(企業や事業の現状を把握し経営戦略を立てるフレームワーク)などで冷静に分析します。
分析を踏まえることで、達成可能かつ優位性の高い戦略的なKGIを設定できます。なおKGIが曖昧だと、具体的な行動指標となるKPIを設定できないため注意しましょう。
STEP2:KGIから逆算してKPIを選択する
KGIの設定後は達成するために必要なプロセスや行動を洗い出し、改善すべき指標KPIを逆算して決定します。
例えばKGIが「年間売上〇〇円達成」であれば、構成要素である「RevPARの向上」が主要KPIです。そこから「ADRの底上げ」や「OCCの維持」、あるいは「手数料のかからない自社サイト経由の予約率UP」など、具体的な行動に結びつく下位のKPIに分解しましょう。
またKPI設定で大切なのが、指標をむやみに増やさないことです。現場が追うべき指標が多すぎると、優先順位が曖昧になり施策が分散します。KGI達成の核となるKPIを2〜3個に絞り込むことで、組織全体の意識とリソースを集中させ効果的な改善サイクルを生み出せます。
STEP3:達成可能で具体的な目標数値を設定する
KPI設定の最後のステップは、選択したKPIに対しいつまでにどれだけの成果を目指すのか具体的な目標数値を定めることです。現場の行動とモチベーションを左右する重要な要素のため、慎重に設定しましょう。
注意点として、目標数値は高すぎて現場のモチベーションを低下させたり、反対に低すぎて成長を生まない水準であってはなりません。「少し頑張れば手が届く」レベルの現実的かつ挑戦的な数値を設定するのがポイントです。
具体的な数値の根拠としては、過去数年間の自ホテルの実績や、競合他社および市場全体の平均値(ベンチマーク)を参考にします。例えば現在のリピート率が15%であれば、次期で18%に引き上げるといった具合です。達成可能かつ具体的な目標値が、日々の業務への集中を促し目標達成へ向けて取り組む環境を醸成します。
KPIをホテルの現場に浸透させ、目標を達成するためのコツ
設定したKPIをホテルの現場に浸透させ、目標を達成するためのコツは以下の3つです。
- スタッフ全員に「自分ごと」化させる
- PDCAを回し続ける
- 仕組みとツールで目標達成を後押しする
1つずつ詳しく解説します。
スタッフ全員に「自分ごと」化させる
KPIを活用して目標を達成するには、スタッフ全員がその指標を「自分ごと」として捉えることが不可欠です。
まずは設定したKPIと目標数値に対し、数値を目指す背景や目的(KGIとの関連性)と共に全スタッフへ説明する場を設けましょう。これらが単なるノルマではなく、ホテルの成長戦略の一部であることを理解するためです。
次に、フロント、レストラン、清掃など、各部署の日常業務が、どのKPIにどう貢献しているかを具体的に示しましょう。例えば「清掃品質が上がる→顧客満足度の向上→リピート率UP」など日常業務へ意味づけすることで、全スタッフがホテル全体の目標達成に欠かせない存在だと自覚します。
その上で、KPIを常に意識できる環境を整備します。具体的には朝礼での進捗共有や、バックヤード(スタッフルーム)へのグラフ掲示などです。目標達成までの状況を「見える化」し、全員で目標に向かって一体感を持ちながら取り組める環境をつくりましょう。
PDCAを回し続ける
KPIは一度設定すれば終わりではなく、目標を達成し続けるために、PDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクルを回し、継続的に進捗を確認し改善アクションにつなげるのが重要です。
KPIを成果に結びつけるためには、進捗確認とフィードバックの仕組みをルーティン化します。具体的には、週次や月次でレビュー会議を定期的に実施し、結果を詳細に分析します。
会議では「目標を達成できた要因は何か」「未達の場合、何が問題だったか」「その問題に対して次はどう改善するか」を、部署やチーム全体で徹底的に議論しましょう。
常に反省と改善を繰り返す環境を構築することで、PDCAサイクルが回りKPIの達成率を高めます。
仕組みとツールで目標達成を後押しする
KPIを継続的に達成するために、現場のモチベーションと管理体制の両方を仕組みとツールで後押ししましょう。
まずスタッフのモチベーションを維持するために、KPIの達成度を人事評価の一部に組み込みます。加えて達成度に応じてインセンティブを与えると効果的です。KPI達成が個人やチームの具体的な利益につながり、「自分ごと」として積極的に取り組む姿勢を促します。
次にKPI管理の効率化です。手作業でのデータ集計や分析には限界がある上、時間と労力がかかり改善アクションが遅れがちになります。そこでPMS(ホテル管理システム)などのITツールを活用します。
ITツールを導入すれば、OCC、ADR、RevPARといった重要指標のデータをリアルタイムで自動集計・分析可能です。煩雑なデータ処理から解放されるため、空いたリソースを顧客サービスやデータに基づいた改善活動に注力できます。
関連記事:>>ホテルDXとは?導入のメリット・成功事例・注意点を徹底解説
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ここまでホテルのKPI設計について、設定するメリットや手順などを解説してきました。もし「正しいKPIを設定できるか自信がない」という方は、ぜひリロホテルソリューションズまでご相談ください。
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まとめ
ホテル経営におけるKPIは、設定した目標を達成するための進捗を数値で可視化する重要指標です。
最終目標(KGI)の達成に必要な多角的な要素が評価の対象で、RevPARやリピート率といった成果を可視化するための数値を具体的に設定します。
またKPIを設定する際には、KGIから逆算してKPIを選択し、達成可能かつ具体的な数値を設定するのがポイントです。設定したKPIは各スタッフが「自分ごと化」として意識できるように、朝礼などで進捗状況を共有し、一丸となって取り組める環境を整えましょう。
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株式会社リロホテルソリューションズ
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