レベニューマネジメントとは?データ活用でホテル収益を最大化する方法
ホテルのレベニューマネジメントで頭を悩ませている経営者の方も多いでしょう。「競合に合わせてなんとなく値下げしている」など、勘や経験に頼ったレベニューマネジメントでは機会損失につながる可能性があります。
今回はレベニューマネジメントの基礎から、ダイナミックプライシングとの違い、具体的な導入ステップまでを解説します。
レベニューマネジメントで失敗したくないホテル関係者の方は、ぜひ最後までご覧ください。
ホテル経営におけるレベニューマネジメントとは
ホテル経営におけるレベニューマネジメントについて、「レベニューマネジメントの定義」と「イールドマネジメントとの関係性」の2つの観点から解説します。
すでにレベニューマネジメントを実践している方も、正しく理解するために改めて確認していきましょう。では、順に詳しく解説します。
需要を予測し「収益」を最大化する手法
ホテルにおけるレベニューマネジメントとは、過去のデータや市場動向を分析して将来の需要を予測し、客室の販売価格を動的に設定して収益を最大化する手法です。単に客室を売るのではなく、需要予測に基づき「誰に、いつ、いくらで売るか」をコントロールする高度な在庫管理手法です。
ゴールは売上(Revenue)の最大化に留まらず、販売経費や変動費なども考慮に入れた最終的な収益の最大化にあります。顧客セグメントごとの予約時期や滞在期間、追加サービスの利用意向などを分析し、最適な価格と販売制限(期間や客室数)を設定し、空室率を抑えつつ高い利益を生み出す販売戦略を実行します。
イールドマネジメントとの関係性
レベニューマネジメントは、元々アメリカの航空業界で座席の収益最大化のために生まれたイールドマネジメント(Yield Management)とほぼ同義ですが、その適用範囲は拡大しています。
イールドマネジメントは、「客席(客室)」という固定された在庫の収益最大化(RevPARの向上)に焦点を当てる戦術的な手法です。
一方のレベニューマネジメントは、客室に加えてレストラン、宴会場、スパなどの付帯施設の売上や、販売チャネルごとの経費(コスト)まで含めた収益の最大化を目指す戦略です。
| 項目 | イールドマネジメント | レベニューマネジメント |
| 起源 | 航空業界 | イールドマネジメントから |
| 焦点 | 客室など特定の固定在庫の収益 | 客室と付帯施設を含むホテル全体の収益 |
| 目的 | 主に売上の最大化 | 最終的な収益の最大化(コストも考慮) |
| 位置づけ | 戦術的な手法 | 戦略的かつ包括的なアプローチ |
「トータルの収益管理」の視点が重要視されており、イールドマネジメントはレベニューマネジメントの一部を構成する要素と位置づけられます。
ダイナミックプライシングとの違い
混同されがちなダイナミックプライシングとレベニューマネジメントの違いを、以下の2つの観点から解説します。
- 「戦術」と「戦略」
- 両者の組み合わせが重要
では、それぞれ詳しく見ていきましょう。
「戦術」と「戦略」
レベニューマネジメント(RM)は、過去のデータや市場予測に基づき「誰に、いつ、いくらで、どれだけ売るか」を決定する戦略的な枠組み全体を指します。顧客セグメントや予約チャネルの販売枠のコントロールが中心です。
一方、ダイナミックプライシング(DP)はRM戦略を実行するための「価格設定」という戦術の1つです。リアルタイムの需給変動や競合の状況に応じて、価格を自動的かつ機動的に変動させます。
| 項目 | レベニューマネジメント(RM) | ダイナミックプライシング(DP) |
| 位置づけ | 戦略(マネジメント)全体 | 戦術(プライシング)の一部 |
| 目的 | 最終的な収益の最大化 | リアルタイムの需給に合わせた価格最適化 |
| 主な要素 | 需要予測、販売枠の管理、ターゲット選定 | 価格の機動的な変動、競合価格の監視 |
| イメージ | 設計図(どう売るかの全体像) | 道具(価格を変動させるための具体的な手段) |
DPはRMの中核をなす要素ですが、RMは在庫管理や販売制限の設定など、価格変動以外の広範囲の施策を含みます。
両者の組み合わせが重要
収益最大化のためには、レベニューマネジメント(RM)戦略とダイナミックプライシング(DP)戦術の組み合わせが重要になります。
RMが示すのは、過去データに基づく需要予測や、どのセグメントにどれだけ売るかといった戦略的な設計図です。単に売れない日に安売りする受け身の姿勢ではなく、高稼働が見込まれる日には単価を上げ利益を確保する攻めの姿勢を取ります。
一方、DPはRM戦略に基づき、リアルタイムの市場状況や競合価格に考慮して価格を変動させる実行力を提供します。両者を適切に組み合わせることで、需要予測が外れた際の機会損失(安売りや売り残し)を最小限に抑え、常に最適な価格で販売し続けられるのです。
※>>#43 ホテル ダイナミックプライシングへの内部リンク
中小規模ホテルにレベニューマネジメントが必要な理由
中小規模ホテルにレベニューマネジメントが必要な理由は、主に以下の2点です。
- 2つの「機会損失」を防ぐため
- 「データ経営」への転換のため
あわせてレベニューマネジメントを導入する際のハードルと注意点も解説します。では、順に詳しく解説します。
2つの「機会損失」を防ぐため
レベニューマネジメント(RM)が必要な最大の理由は、以下の2つの極端なリスクを回避し、収益を最大化する適正なバランスを保つためです。
- 利益を取り損ねるリスク
需要が非常に高いにもかかわらず、価格を安く据え置いてしまい、値上げの機会を逃してしまうこと。
- 売れ残りのリスク
価格設定が高すぎたために予約が入らず、需要があったにもかかわらず空室のまま販売期間が終了してしまうこと。
ホテルの客室は航空機の座席と同様に、当日に売れなければ価値がゼロになる「消滅性在庫」です。小売店のように、翌日以降へ在庫を持ち越しての販売はできません。
RMは需要予測に基づき、「適切な価格で」「適切な時期に」「適切な顧客に」で販売します。2つのリスクを同時に管理し、経営の安定と収益の最大化につなげるのがポイントです。
「データ経営」への転換のため
ホテルにおいてレベニューマネジメント(RM)が必要な理由は、経験則に依存した経営からの脱却とデータ経営への転換にあります。
コロナ禍以降のインバウンド需要の急激な変動など、従来の長年の経験則や勘が通用しないイレギュラーな市場環境に対応するには、客観的なデータ分析(過去の販売実績、競合価格、予約動向など)が不可欠です。
RMの導入でデータに基づく正確な需要予測が可能になれば、客室単価の最適化だけでなく、予測を基にしたスタッフの配置やレストランの食材仕入れ量の調整など、ホテル運営におけるコスト削減にも応用できます。
分析結果に基づく「データ経営」への転換により、売上から経費を差し引いた最終的なGOP(営業総利益)の向上につながり、本質的な経営改善を図れます。
導入のハードルと注意点
レベニューマネジメント導入の大きなハードルは、データ収集と分析に必要な人的リソースです。過去の販売データや予約動向、競合価格など多岐にわたるデータを正確に集め分析するには、時間と手間がかかり専門的な知識も必要です。
また予約時期や販売チャネルによって価格が異なるため、「あの人は安く泊まれたのに」といった顧客の不公平感やクレームにつながるリスクがあります。特に直前の値下げは早く予約した顧客が「損」をすることになり、クレームにつながる恐れがあります。価格決定ロジックの透明化や、早期予約特典など納得感のある販売プランの設計が重要です。
レベニューマネジメント実践とKPI(指標)の関係
レベニューマネジメント実践とKPI(指標)の関係を、以下の3つのポイントに分けて解説します。
- RevPAR(販売可能客室数あたり売上)を最重要視する
- ADR(客室平均単価)を適正化する
- OCC(客室稼働率)だけで判断しない
順に詳しく見ていきましょう。
RevPAR(販売可能客室数あたり売上)を最重要視する
ホテルの「稼ぐ力」を示すRevPAR (Revenue Per Available Room) は、レベニューマネジメントで最重要視すべき指標です。
RevPARは、OCC(稼働率)とADR(平均客室単価)を掛け合わせて算出されます。つまりRevPARこそが、稼働率と単価という二つの要素のバランスが最適化されているかを示す指標です。
RevPARが低い場合、それは単なる安売りによる高稼働(高OCC・低ADR)や、高すぎる価格設定による空室(低OCC・高ADR)など、収益最大化の機会損失が生じている状態を反映しています。
単に稼働率や料金が高いだけでは、収益は最大化されません。RevPARは「売り方の質」を評価する羅針盤となる指標です。
>>関連記事:RevPAR(レブパー)とは?ホテル経営の収益力を測る指標を徹底解説!
ADR(客室平均単価)を適正化する
ADR(Average Daily Rate:客室平均単価)の適正化は収益最大化に直結します。客室稼働率(OCC)が重要である一方、単価が低すぎると利益は伸びません。
大切なのは需要予測に基づき、OCCとのバランスを見極めることです。高需要日にはどこまで単価を上げられるかを検討し、安売りを避け収益を確保します。反対に低需要日でも単価を下げすぎずに魅力的な付加価値を提供すれば、ADRの急激な低下を防げます。
「OCCとADRの最適な組み合わせ」を見つけることが、RMの核心となります。その成果を示すのがRevPAR(販売可能客室1室あたりの収益)の向上です。
>>関連記事:ホテルのADRとは?計算方法から収益を最大化する活用法まで徹底解説!
OCC(客室稼働率)だけで判断しない
レベニューマネジメントにおいてOCC(客室稼働率)は重要な指標ですが、これだけで成功を判断することは危険です。
なぜなら稼働率100%を達成していても、単に安売りしすぎただけで収益(利益)が最大化されていない場合があるためです。100円で客室を販売すればきっと満室ですが、それでは利益が赤字なのは言うまでもありません。
安易な安売りで早々に客室が埋まり、機会を損失していないか、適時価格を見直しましょう。
>>関連記事:ホテルの稼働率(OCC)とは?経営成功の鍵となる稼働率向上のポイントを解説!
レベニューマネジメント導入の4ステップ
レベニューマネジメント導入のステップは、以下の通りです。
- ステップ1:現状把握とデータ蓄積
- ステップ2:需要予測
- ステップ3:販売戦略と価格コントロール
- ステップ4:効果検証とPDCA
1つずつ詳しく解説していきます。
ステップ1:現状把握とデータ蓄積
レベニューマネジメントを始める前に必要なのが、現状の正確な把握とデータの整備・蓄積です。
まずは過去の予約実績や顧客属性、キャンセル率や競合価格など多岐にわたるデータを可視化することから始めます。多くの場合、必要なデータはPMS(プロパティマネジメントシステム)やサイトコントローラーにありますが、これらが「眠っている状態」では分析に使えません。
システムからデータを抽出し、統一された形式で蓄積・整備することで、初めて「使える状態」となります。眠っているデータを整備し、RMを始める準備を整えましょう。
ステップ2:需要予測
レベニューマネジメントの成功は、正確な需要予測にかかっています。この予測は、単に過去の予約実績や季節性といった内部データを見るだけでは不十分です。
予測の精度を高めるためには、ホテルを取り巻く外部要因の徹底的なリサーチが不可欠です。具体的には、週末や特定期間における近隣の大規模イベント、天候(特にリゾート地や観光地)、そして競合ホテルの価格設定や稼働状況をリアルタイムで分析します。
これらの情報を総合的に組み合わせることで、需要の増減を客観的に予測します。「いつ、いくらで売るか」という、意思決定の精度を高めるのがポイントです。
ステップ3:販売戦略と価格コントロール
需要予測が完了したら、具体的な販売戦略と価格コントロールを実行します。予約状況を参考に強気で販売する「攻めの日(高需要)」と、価格競争力を重視し客室を確保する「守りの日(低需要)」を決めます。
具体的には、予約時期に応じた早期割引の期間設定や、旅行会社やオンラインエージェント(OTA)への客室在庫の割り当て(アロットメント)を柔軟に調整しましょう。キャンセルやノーショウを見越したオーバーブッキング戦略も検討し、機会損失の最小化を図ります。
価格と在庫の最適なバランスを取り、収益の最大化を目指しましょう。
ステップ4:効果検証とPDCA
レベニューマネジメント実行後の効果検証とPDCAサイクルの継続は、予測精度と収益を向上させるために不可欠です。
設定した目標(予算や予測)に対し、実際の結果(実績)がどうだったかを比較する予実管理を実施します。予測と実績にズレが生じた場合は、必ず原因を深堀りしましょう。
需要予測が外れる原因は、競合ホテルの予期せぬ値下げや突発的な需要の発生、あるいは自身の価格設定ロジックのミスなどが考えられます。
分析結果を次の需要予測や価格コントロール戦略にフィードバックし、精度を継続的に高めて収益最大化につなげましょう。
自社運用か?外部委託か?効率的な運用体制の構築
レベニューマネジメントを自社運用するか外部委託するかで悩んでいる方も少なくないでしょう。以下の2つの観点から、効率的な運用体制の構築につなげる方法を解説します。
- ツール導入による自動化と効率化
- 専門チームによるコンサルティング・アウトソーシング
では、順に詳しく見ていきましょう。
ツール導入による自動化と効率化
レベニューマネジメントを実践する上で、手動でのデータ集計や分析には限界があり、人的ミスや時間的コストがボトルネックとなります。効率的に運用するためには、レベニューマネジメントシステムやAIツールの導入が効果的です。
過去データや競合価格、需要予測を自動で収集・分析し、最適な価格や在庫配分を提示します。煩雑な分析時間を大幅に短縮できるため、戦略の立案や販売チャネルの最適化、顧客セグメントの深掘りなど、付加価値の高い業務に時間を割けられます。
専門チームによるコンサルティング・アウトソーシング
「ツールを導入しても使いこなせない」「データ分析に基づいた戦略を立案するノウハウがない」という場合は、専門チームによるコンサルティングやアウトソーシングが有効です。
専門家に運用を任せれば、迅速かつ正確にRMサイクルを軌道に乗せられます。また外部の第三者の客観的な視点が入ることで、自社では気づきにくかった潜在的な強みや、価格設定・販売チャネルに関する改善点が明確になるでしょう。
リロホテルソリューションズが提案する収益改善
「レベニューマネジメントを実践できるか不安」という方は、ぜひホテル運営のプロ集団であるリロホテルソリューションズまでご相談ください。
「90日で黒字化」をスローガンに、ターンアラウンド(事業再生)を通じて全国リゾート地・過疎地の宿泊施設を運営してきたプロ集団が、宿泊業のあらゆる課題を解決へと導きます。
レベニューマネジメント支援においても、単なるツールの提供だけでなく、ホテル経営の現場視点を持った運用支援が可能です。
施設ごとの課題に応じて「短期・長期」「部分的・全体的」など、予算や状況に適したオーダーメイドの支援策を提案します。
ただいま自施設の経営状況を客観的に確認できる「宿の健康診断」を無料実施中です。独自機能の5段階(A〜E)評価で判定し、根拠と対策案を具体的に提示します。ぜひご利用ください。
>>宿泊支援のプロが行う 宿の健康診断”無料”お申し込みフォーム
まとめ
レベニューマネジメントは過去のデータや市場動向を参考に将来の需要を予測し、客室の販売価格をコントロールして収益を最大化する手法です。需要が高い時期には価格を引き上げ、需要が低い時期には価格を下げて需要を喚起することで、利益の最大化を図るのが目的です。
またレベニューマネジメント実行後には効果検証を行い、PDCAサイクルを回し続けて予測精度と収益を上げることが求められます。
リロホテルソリューションズではレベニューマネジメントの支援はもちろん、WEB販売戦略の提案から戦術の実装、代行まで対応し、短期的なトレーニングも可能です。以下のフォームからお気軽にご相談ください。
【監修者情報】
株式会社リロホテルソリューションズ
「90日で黒字化」を目標に、全国リゾート地・過疎地の宿泊施設を運営してきたプロ集団です。
あらゆる課題を抱える宿泊施設様のご支援を行い、売上の確保だけでなく、収益確保や運営効率まで一貫したご支援を行います。



