ホテル・旅館のオールインクルーシブとは?導入メリットと運営ポイント
「客単価を上げたいが、単純な値上げでは予約が減ってしまう」——そんな行き詰まりを感じたとき、オールインクルーシブは有力な選択肢になります。追加料金を気にせず過ごせる体験そのものを商品にすることで、値上げではなく価値の提供として単価を引き上げられるからです。
ただしこの仕組みは、原価設計を一歩間違えると繁忙期ほど利益が痩せるという厄介な性質を持っています。この記事では、オールインクルーシブの基本から、赤字化させないための料金設計と運営オペレーションの実務まで、支援現場の視点で解説します。
📌 この記事でわかること
オールインクルーシブとは
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オールインクルーシブの定義
オールインクルーシブ(All Inclusive)とは、宿泊料金のなかに食事・ドリンク・アクティビティ・館内施設利用料などをあらかじめ含めて提供する料金体系のことです。滞在中に発生する追加料金を原則ゼロにすることで、ゲストが財布を気にせず過ごせる状態をつくります。
もともとはカリブ海や地中海のリゾートで発展した仕組みですが、近年は国内のリゾートホテル・温泉旅館でも導入が広がっています。単に「食事付き」にすることではなく、滞在体験そのものをひとつの商品として設計し直すことが、この仕組みの本質です。
1泊2食プラン・定額制宿泊との違い
混同されやすい3つの料金体系を整理します。自施設がどこに位置しているかを確認してください。
| 料金体系 | 料金に含まれるもの | 追加料金の発生 | 運営上の主な論点 |
|---|---|---|---|
| 1泊2食プラン | 宿泊+夕食・朝食 | 飲み物・売店等は都度精算 | 食材原価の管理が中心 |
| オールインクルーシブ | 宿泊+食事+ドリンク+館内利用の一部または全部 | 原則発生しない(範囲外のみ有料) | 消費量が読めず、原価が変動しやすい |
| 定額制宿泊(サブスク型) | 月額料金で一定回数・日数の宿泊 | 館内消費は通常別途 | 稼働の平準化が主目的 |
混同されがちですが、オールインクルーシブは「1滞在あたりの包含範囲」を広げる仕組み、定額制宿泊は「一定期間の宿泊回数」を売る仕組みであり、目的も原価構造もまったく異なります。宿泊業の各種用語については「ホテル経営の重要用語集」もあわせてご覧ください。
包含範囲は「フル」から「部分導入」まで幅がある
【図解】包含範囲の3段階
(ドリンク中心)
(飲食+館内施設)
(アクティビティ含む)
※いきなりフル型を目指す必要はありません。ライト型から始めて消費量の実データを蓄積し、段階的に範囲を広げるのが、原価リスクを抑えた現実的な進め方です。
国内外の主要事例3選
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客単価の全体水準を押さえておく
事例を見る前に、国内旅行の単価水準を確認しておきましょう。観光庁の旅行・観光消費動向調査(2024年年間値・確報)によれば、日本人国内宿泊旅行の1人1回あたり旅行支出は69,362円で、2019年比26.0%増と大きく伸びています。この支出には交通費・飲食費・買物代なども含まれますが、旅行者が1回の宿泊旅行に使う総額そのものが上がっていることは、オールインクルーシブのように滞在価値をまとめて提供する商品設計にとって追い風です。客室稼働率など施設側の指標は、同じく観光庁の宿泊旅行統計調査で施設タイプ別に確認できます。
類型①:海外リゾート型(発祥のモデル)
カリブ海・地中海・東南アジアのビーチリゾートで発展した形態です。空港からの移動距離が長く、周辺に飲食店や商業施設が乏しい立地であることが多く、「敷地の外に出る必要がない」ことがそのまま価値になる構造です。滞在日数が長い(1週間程度)ため、1泊あたりの原価変動が平準化されやすいという利点もあります。
類型②:国内リゾートホテル型
国内では、山間部や離島など、周辺に飲食店の選択肢が限られるリゾートホテルでの導入例が増えています。夕食・朝食に加えて、ラウンジでのドリンク提供や夜食、アクティビティを含める形が主流です。ファミリー層やカップル層に対して「滞在中の出費を気にしなくてよい」という安心感を訴求し、結果として客単価と満足度の両方を引き上げています。
類型③:温泉旅館型(部分導入モデル)
温泉旅館では、もともと1泊2食が標準であるため、そこにドリンクや夜食、湯上がりラウンジの利用を加える「ライト型」からの導入が現実的です。既存のオペレーションを大きく変えずに客単価を引き上げられるため、設備投資を抑えたまま高単価化を図りたい旅館に適した形と言えます。館内で完結する滞在価値を打ち出すことで、周辺の飲食店に流出していた消費を取り込める点も利点です。
成功例に共通する3つの前提条件
①周辺に飲食・買い物の選択肢が少ない立地であること、②ターゲット層が明確で消費傾向が読めること、③館内で提供できるコンテンツ(ラウンジ・アクティビティ・温浴施設)が揃っていること——この3つが揃っているほど、オールインクルーシブは機能します。逆に、駅前立地で周辺に飲食店が豊富な施設では、ゲストが館内で消費しないまま料金だけが高くなり、価値が伝わりにくくなります。
導入メリットとデメリット
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導入メリット
▲ オールインクルーシブがもたらす4つの効果
導入デメリット・リスク
▼ 導入前に織り込むべき4つのリスク
単価戦略の全体像については「ADR(客室平均単価)とは?計算方法と引き上げ施策」もあわせてご覧ください。宿泊プラン全般の設計手法は「宿泊プランの企画・作成方法」で解説しています。
料金設計の考え方
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料金設計の基本式
たとえば現在の1名あたり宿泊単価が18,000円、追加で提供する飲食の想定原価が1名1泊2,500円、目標とする追加分の原価率を30%とするなら、追加すべき料金は「2,500 ÷ 0.3 ≒ 8,300円」となり、オールインクル料金は約26,300円が目安になります。
ただし、この計算式には落とし穴があります。「想定館内消費原価」を平均値で置くと、必ず赤字方向にずれるという点です。
平均値ではなく「上限消費量」で設計する
飲み放題を含むプランでは、消費量に大きなばらつきが出ます。ほとんど飲まないゲストと、上限まで飲むゲストが同じ料金を払う構造だからです。平均消費量で価格を設計すると、消費量の多いゲストが増えた瞬間に原価が跳ね上がります。
実務では、上位20%のヘビーユーザーの消費量を基準に原価を見積もり、その上で平均値との差を利益として確保するという設計が安全です。特に、団体・宴会需要や、長期滞在客の比率が高い施設では、この差が大きくなります。
導入前に必ずやるべき「3ヶ月の実測」
価格を決める前に、既存の館内消費データ(ドリンク・売店・アクティビティの利用実績)を3ヶ月分集計してください。1名あたりの平均消費額だけでなく、上位20%の消費額と、消費ゼロ層の比率を把握することが重要です。この分布が分からないまま価格を決めると、原価率の見積もりが根拠のない数字になります。
オールインクルーシブ収益シミュレーター
現状の単価と、オールインクル導入後の料金・原価率・人件費増を入力すると、月間の粗利がどう変化するかを試算します。数値は端末内で計算され、送信されません。
運営オペレーション設計
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提供設計の4つのレバー
オールインクルーシブの原価は、料金設定だけでなく「どう提供するか」で大きく変わります。以下の4つのレバーを組み合わせて、原価と満足度のバランスを取ります。
原価をコントロールする4つの設計要素
人員体制への影響
オールインクルーシブ導入で見落とされがちなのが、人件費への影響です。ラウンジの運営時間が延びれば、その時間帯を担当するスタッフが必要になります。一方で、都度精算がなくなることによるフロント業務の削減効果もあるため、差し引きでどれだけ人時が増えるのかを事前に試算しておくことが重要です。
人件費の管理手法については「ホテル人件費の適正比率と削減実践」で詳しく解説しています。
データ管理の体制
オールインクルーシブは、導入して終わりではありません。実際の消費量が想定と合っているかを、毎月検証する体制が不可欠です。ドリンクの出数、時間帯別の利用者数、1名あたりの実消費原価——これらを日次で記録し、月次で原価率を算出してください。想定を上回っている場合は、提供時間帯や品目の見直しで速やかに調整します。
提供体制の増強を人材面から支える選択肢
オールインクルーシブの導入初期は、ラウンジ運営など新たな提供体制が必要になり、既存スタッフだけでは回りきらない場面があります。グループ会社である株式会社エキップは、宿泊業に特化した人材サービスを提供しており、ホテル・旅館での勤務経験を持つスタッフが在籍しています。導入初期の立ち上げ期や繁忙期のピーク対応など、固定人員を増やさずに体制を厚くしたい局面で活用いただけます。詳細は下記よりご確認ください。
失敗パターン|原価管理ミスで赤字化する3類型
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失敗パターン①:平均消費量で価格を決め、繁忙期に原価が跳ね上がった
最も多い失敗です。導入前の館内消費データから1名あたりの平均消費額を算出し、それをもとに料金を決めた結果、実際にはヘビーユーザーの消費が想定を大きく超え、原価率が10ポイント以上上振れしたケースです。
特に問題になるのは繁忙期です。グループ客・団体客の比率が上がると、飲食の消費量は個人客より明らかに増えます。年間で最も稼げるはずの時期に、最も原価率が悪化するという逆転が起きます。対策は、上位20%の消費量を基準に原価を見積もること、そして繁忙期は包含範囲を絞ったプランを併売することです。
失敗パターン②:人件費の増分を原価計算に入れていなかった
食材・飲料の原価だけを計算し、ラウンジ運営に必要な人件費の増分を織り込まずに料金を決めたケースです。試算上は粗利が改善するはずが、実際には人件費が月数十万円単位で増え、営業利益では導入前を下回りました。
オールインクルーシブの原価は「変動原価+人件費増分」で捉える必要があります。提供時間帯の延長がどれだけの人時増につながるかを、シフト表ベースで事前に試算してください。
失敗パターン③:包含範囲が曖昧で、現場とゲストの認識がずれた
「何がどこまで無料なのか」の線引きが曖昧なまま運用を始めた結果、現場スタッフが都度判断を迫られ、ゲストとの間でトラブルが発生したケースです。プレミアム酒類の扱い、提供時間外の対応、追加注文の可否——こうした判断が担当者ごとに異なると、口コミ評点の低下にもつながります。
対策はシンプルで、包含範囲を紙とサイト上で明示し、現場の判断が不要な状態にすることです。「含まれるもの」だけでなく「含まれないもの」も明記してください。
⚠️ 導入前に決めておくべき「撤退ライン」
オールインクルーシブは、一度導入すると「やめる」判断が難しくなります。既存客が定着し、料金体系を戻すことが値上げ以上のネガティブな印象を与えるためです。だからこそ、着手前に監視指標と撤退ラインを決めてください。具体的には、①実績原価率(想定を5ポイント超過したら提供範囲を見直す)、②月間粗利(3ヶ月連続で導入前を下回ったら設計を再検討)、③口コミ評点(0.2ポイント低下したら提供品質を点検)——の3点です。まずは期間限定プランとして試験導入し、データを取ってから本格展開するのが安全な進め方です。
内製の限界とプロとの差
自社だけで料金設計を進めたときにぶつかる壁
⚠️ 内製対応の限界——「勘と経験の料金設計」が招く3つのリスク
オールインクルーシブの料金を自社の判断だけで設計している施設では、①消費量分布の把握不足(平均値しか見ておらず、ヘビーユーザーの上振れリスクを織り込めない)、②人件費増分の見落とし(食材・飲料原価だけで採算を判断し、提供体制のコストを計算に入れていない)、③価格受容性の検証不足(値上げ後にOTA上でどれだけ選ばれなくなるかを事前に読めない)——の3つが典型的に発生します。しかも、一度導入すると料金体系を元に戻す判断が難しく、赤字構造が固定化しやすいのがこの施策の怖さです。
専門家が持っている3つの武器
🔍 プロとの差——専門家が持つ「3つの武器」
運営支援の専門家は、①複数施設の実消費データ(同業態・同客層でどの品目がどれだけ消費されるかの分布を把握しており、原価率を保守的かつ現実的に置ける)、②価格受容性の検証手法(期間限定プランでのテスト販売と、OTA上での予約獲得率の変化を測る設計ができる)、③提供オペレーションの設計力(セルフサービス化や時間帯限定によって、増員なしで包含範囲を広げる方法を持っている)——を組み合わせて意思決定を行います。自社の担当者が「たぶんこのくらいの消費だろう」と見積もっている間に、専門家は分布データから上位20%の消費量を数値で押さえ、損益分岐の原価率から逆算して価格を決めています。この精度の差が、導入初年度の利益として数百万円規模で表れます。
よくある質問(FAQ)
オールインクルーシブに関するよくある疑問
まとめ:オールインクルーシブは「原価設計」で決まる
オールインクルーシブの成否を分けるのは、コンセプトでも設備でもなく、原価設計の精度です。宿泊料金に食事・ドリンク・館内利用を含めることで客単価は確実に上がりますが、その裏側で消費量に連動して原価も動きます。この変動をどこまで正確に読めるかが、収益改善と赤字化を分ける境界線になります。
導入を検討する際の順序は明確です。まず立地・館内スペース・客層という3つの適性条件を確認し、次に3ヶ月分の館内消費データを集計して上位20%の消費量を把握します。その数値をもとに損益分岐となる原価率を逆算し、人件費の増分まで含めて料金を設計する——この手順を踏まずに平均値だけで価格を決めると、繁忙期に原価が跳ね上がる典型的な失敗に至ります。
そして、いきなりフル型を目指す必要はありません。ドリンク中心のライト型で期間限定プランとして試験導入し、実績データを取ってから範囲を広げるのが、リスクを抑えた現実的な進め方です。着手前に実績原価率・月間粗利・口コミ評点という3つの撤退ラインを決めておいてください。
リロホテルソリューションズの支援実績
| 温泉旅館(28室・ライト型導入) | リゾートホテル(65室・スタンダード型) |
|---|---|
| 客単価 18%向上 ・湯上がりラウンジのドリンク包含から段階導入 ・提供時間帯を限定し人件費増分を最小化 ・セルフサービス方式で増員なしを実現 |
粗利額 月間120万円改善 ・上位20%の消費量を基準に料金を再設計 ・高原価品目を包含範囲から除外し原価率を安定化 ・団体客向けは別プランを併売しリスクを分離 |
支援施設全体では、導入から6〜12ヶ月で客単価15〜25%程度の向上が見られます。特に、事前に消費データを実測してから料金設計に入った施設ほど、原価率が想定内に収まり粗利改善につながる傾向があります。
株式会社リロホテルソリューションズでは、オールインクルーシブの導入適性の判断から、消費データの分析、料金設計、提供オペレーションの構築まで一貫して支援しています。導入したいが原価が読めない、どこまで含めるべきか判断できない、そういった方はお気軽にご相談ください。
【監修者情報】
株式会社リロホテルソリューションズ
「90日で黒字化」を目標に、全国リゾート地・過疎地の宿泊施設を運営してきたプロ集団です。
あらゆる課題を抱える宿泊施設様のご支援を行い、売上の確保だけでなく、収益確保や運営効率まで一貫したご支援を行います。







