FLコストとは?ホテル・旅館のFL比率と改善の進め方
FLコストとは、食材費と人件費を足したコスト指標です。売上は戻ったのに利益が残らないホテル・旅館では、この2つが売上以上のペースで膨らんでいる例が少なくありません。
この記事では、FL比率の計算式、原価率・人件費率との違い、業態別の目安(当社の目安)、FLR・FLMの見方、30日で1サイクル回す進め方を整理しました。人件費を削っても手残りが増えないケースは、仮置きの数字で試算しています。
記事内のFLR・FLM自動計算を使えば、5項目の入力でFL比率・FLR・FLMとFLM後の手残りを確認できます。
FLコストとは、食材費(Food)と人件費(Labor)を合算したコスト指標です。売上に占める割合(FL比率)が高いほど、利益は薄くなります。
⚠️ 品質を落とさずに利益を残すには、食材費と人件費の内訳から見直すのが先決です。自館の数字はFLR・FLM自動計算で確認できます。
FLコストとは|食材費と人件費の基本
食材費と人件費を合わせたFLコストの考え方
Food(食材費)とLabor(人件費)を足した金額が、FLコストです。もとは飲食業界の考え方です。ただ、食事の提供と接客を伴うホテル・旅館でも、利益の残り方を見る基本の数字として使われています。具体的には、食材費に会席・バイキング・朝食・ラウンジなどで出す飲食物の原価が入ります。一方、人件費は、フロント・客室清掃・調理・配膳スタッフの給与、社会保険料、残業代までを含みます。
本記事では、金額そのものを「FLコスト」、売上に対する割合を「FL比率」と呼び分けます。分母には料飲部門だけの売上ではなく、施設全体の月間売上高を使います。宿泊施設では料飲の売上と人件費を部門別に切り分けにくいので、後述するFLR・FLMや計算ツールとも整合を取りやすくなります。
| 指標 | 計算式 |
|---|---|
| FL比率 | (食材費 + 人件費)÷ 売上高 × 100 |
計算例:月間売上高1,000万円、食材費200万円、人件費400万円なら、FL比率は60%になります。つまり、売上の6割が食材費と人件費に消えている状態です。なお、人件費にはフロント・清掃を含む全スタッフ分を入れます。料飲部門だけを按分して計算すると、本記事の目安やツールの結果とはずれる点に注意してください。
FLコストと原価率・人件費率の違い
FLコストを調べる方は、原価率や人件費率との違いで迷いがちです。つまり、FL比率は2つを合わせて見る指標です。たとえば、原価率が適正でも人件費率が高ければ、FL比率は下がりません。
| 指標 | 計算式 | 見るもの |
|---|---|---|
| 原価率 | 食材費 ÷ 料理の売上 × 100 | 食材の使い方と値付けのバランス |
| 人件費率 | 人件費 ÷ 売上高 × 100 | 人員配置と生産性 |
| FL比率 | (食材費 + 人件費)÷ 売上高 × 100 | 食材費と人件費の合計負担 |
FLコストの中でも人件費が利益を左右する背景
宿泊業は労働集約型のため、人件費の動きが利益に直結します。たとえば、厚生労働省の令和7年雇用動向調査では、宿泊業,飲食サービス業の離職率は、一般労働者で21.5%、パートタイム労働者で25.0%でした(確認日は2026年10月29日)。採用や教育にかかる費用が、人件費の外側にも発生しやすい業種といえます。
また、令和8年度の地域別最低賃金は、全国加重平均で1,177円(前年度は1,121円)と答申されました。発効は2026年10月1日から12月2日にかけて順次の予定です(確認日は同じく2026年10月29日)。最低賃金に近い時給のスタッフが多い施設では、シフトを変えなくてもLが膨らみます。
「FLを削る」だけの発想は失敗しやすい
改善というと、たとえば食材を安くする、人を減らす、といった発想になりがちです。しかし、それでは料理の質やサービスが落ちて客離れを招きます。本記事が一貫して勧めるのは、原価率の組み替えと生産性の向上で、同じ満足度をより少ないコストで出す方向です。
業態別FLコストの目安(FL比率)
業態ごとのFL比率の目安(当社の目安)
実際、「うちの業態なら、FL比率は何%が適正か」という質問をよく受けます。飲食業界では、FLコストを売上の60%以内に収めるのがよく使われる目安です。ただし、ホテル・旅館は客室売上も分母に入るので、同じ物差しはそのまま使えません。そこで、下の表には当社の目安を仮置きの範囲で示します。
| 業態 | FL比率の目安 | F:Lの傾向 | 改善の主眼 |
|---|---|---|---|
| 旅館(1泊2食・料理重視) | 60〜65% | F高め | 食材原価 |
| ホテル内レストラン | 55〜60% | F・L均衡 | 両面 |
| ビジネスホテル(朝食のみ) | 45〜55% | L高め | 人件費・生産性 |
| カフェ・軽食併設 | 50〜58% | L高め | 人件費・回転 |
55〜60%は全業態に共通する合格ラインではなく、比較の出発点にすぎません。そのうえで、料理構成・サービス内容・客単価を見て判断してください。同じ旅館でも料理のグレードや提供形態で、数字は大きく動きます。
なぜ業態でFLコストが変わるのか
ビジネスホテルは素泊まり中心の施設が多く、施設全体の売上に占める料飲売上が小さいので、食材費(F)は低くなりやすい傾向があります。さらに、セルフチェックインでオペレーションを簡素化できる場合もあり、FL比率は旅館より低めに出ます。なお、清掃を外部委託すると、人件費が外注費に移って見かけのFL比率が下がることがあります。一方、温泉旅館は会席料理の原価が重く、接客や布団敷きなど人手のかかる業務も多いので、FLコストが構造的に高くなりがちです。そのため、旅館はまず食材費(F)の見直しを軸にし、人件費(L)は生産性の向上で下げていきます。
F高め業態とL高め業態で、打ち手が変わる
たとえば、料理重視の旅館のように食材費(F)が高い業態には、仕入れと原価率の見直し(食材費の削減5施策)が効きます。一方、朝食のみのビジネスホテルのように人件費(L)が高い業態には、シフト最適化と生産性向上(人件費の削減5施策)が効きます。自館がどちらのタイプかを見極めると、施策が空振りしにくくなります。
FLR・FLMの使い方
FLコストを見る3つの指標の定義
管理で押さえたい指標は3つあります。範囲が段階的に広がる関係で捉えると、整理しやすくなります。FLRは飲食業で使われている既存の指標です。FLMは、FLRにさらに管理可能経費を足すため、当社が本記事で定義した管理指標です(M=Management expenses:管理可能経費)。Mに何を含めるかは施設ごとに決めて構いません。清掃などの外部委託費も、Lに入れるかMに入れるかを決めておきます。ただし、毎月同じ範囲にそろえてください。
| 指標 | 計算式と意味 |
|---|---|
| FL比率 | (F+L)÷売上高。最も基本となる収益性の指標 |
| FLR | (F+L+家賃Rent)÷売上高。立地コストを乗せた採算を示す |
| FLM | (F+L+家賃+水光熱費など管理可能経費M)÷売上高。現場で動かせるコストの実態を示す |
計算例:FL比率だけでは見えない余力
たとえば、月間売上1,000万円、食材費300万円、人件費280万円、家賃100万円、水光熱費など60万円の施設で考えます。まず、FL比率は58.0%、FLRは68.0%、FLMは74.0%です。FL比率だけなら「やや高いが許容範囲」に見えます。しかし、FLMまで見ると、売上の26%(260万円)しか残っていません。そして、この260万円から残りの費用を払って、利益が決まります。
つまり、FL比率で大枠を、FLR・FLMで余力を見る2段構えが、実務では使いやすい方法です。経費全体の構造はホテルの経費内訳で、FLMの先にある利益指標はGOP(営業総利益)で整理しています。
【ツール】FLR・FLM自動計算
試算例:人件費を削っても手残りが増えないケース
仮置きの数字で試算します。前提は、月商1,000万円、食材費300万円、人件費300万円、家賃100万円、管理可能経費60万円(FL比率60.0%)です。売上の落ち込み幅(▲4%・▲8%)も仮置きです。食材費は売上に比例して動き、家賃と管理可能経費は一定とします。ここでの手残りは「売上−食材費−人件費−家賃−管理可能経費」で出した額で、広告費などその他の費用を払う前の金額を指します。
| パターン(月間) | 売上 | 食材費 | 人件費 | FL比率 | 手残り |
|---|---|---|---|---|---|
| 現状 | 1,000万円 | 300万円 | 300万円 | 60.0% | 240万円 |
| 人件費▲10%、売上▲4% | 960万円 | 288万円 | 270万円 | 58.1% | 242万円(+2万円) |
| 人件費▲10%、売上▲8% | 920万円 | 276万円 | 270万円 | 59.3% | 214万円(▲26万円) |
| 廃棄ロス削減で食材費▲5%、売上は維持 | 1,000万円 | 285万円 | 300万円 | 58.5% | 255万円(+15万円) |
まず、FL比率は3パターンとも60.0%より下がっています。しかし、売上が8%落ちたパターンでは、手残りが26万円減りました。つまり、人を減らして浮かせた30万円より、売上の落ち込みのほうが大きかった形です。実際、FL比率だけを追うと、こうした判断ミスが起きます。月次では比率と手残りの金額を並べて見てください。
FLR・FLM自動計算ツール
月間の数値を入力すると、FL比率・FLR・FLMとFLM後の手残りを自動で出します。同じ期間(月次)の数値でそろえてください。判定はFLMと手残りをもとにした当社独自の目安で、FL比率は業態別の目安と見比べてください。公的な基準ではありません。
FLコスト改善30日プラン
FLコストを30日で一巡させる改善サイクル
長期計画を立てるより、まず30日で1サイクル回したほうが、改善は定着します。そこで、現状把握から検証までを1か月で一巡させ、手応えをつかんでから次のサイクルに進んでください。
| 週 | 内容 |
|---|---|
| 1週目:見える化 | FL比率・FLR・FLMを算出し、食材費・人件費を品目別・時間帯別に分解する |
| 2週目:原因特定 | 業態の目安と比べてF・Lどちらが重いかを特定し、ロス・廃棄・手待ち時間の発生源を洗い出す |
| 3週目:施策実行 | 効果の大きい施策を1〜2つに絞って実行する。「食材費の削減5施策」「人件費の削減5施策」から選ぶ |
| 4週目:検証 | FL比率と手残りの変化を測り、うまくいった施策を標準化して次のテーマを決める |
「全部いっぺんに」が最大の失敗要因
食材も人件費も一気に手をつけて現場が混乱する、というつまずき方が典型です。30日プランの肝は、効果の大きい1〜2施策に絞ること。欲張らずに一巡させて成功体験を作ったほうが、結果的に早く進みます。
FLコストで毎月確認したい3つの数字
「全体のFL比率は変わらないのに、利益が減った」という相談を受けることがあります。実際、たいてい内訳が動いています。次の3つを毎月同じ形で記録してください。
食材費(F)の削減5施策|FLコストの改善
品質を落とさず食材費を下げる5つの手
FLコストのうち食材費の削減は、仕入れを叩くことだと思われがちです。しかし、それだけでは品質の低下や取引先との関係悪化を招きます。そこで、料理の満足度を保ったまま効かせられる施策を、次の表にまとめました。
| 施策 | 内容 |
|---|---|
| ①廃棄ロスの見える化 | 何を・いつ・なぜ捨てているかを記録するだけで、過剰仕込みや発注ミスが見えてくる。買ったのに売上にならない純損失を、最初に可視化する |
| ②歩留まりの改善 | カット方法やレシピの分量を標準化し、担当者による差をなくす。同じ仕入れから、より多くの提供量を確保できる |
| ③メニュー構成の見直し | 原価率だけでなく、販売数と粗利額も確認する。利益貢献度の高いメニューを重点的に売ると、全体の原価構成が整う |
| ④仕入れの集約と発注ルール | 取引先を整理してボリュームを集約し、適正在庫に基づく発注ルールを決める。発注の属人化を解消できる |
| ⑤地元食材・旬食材の活用 | 旬の地元食材は仕入れが安定し、原価を抑えやすい。「地のもの」という付加価値で、満足度も高められる |
5施策に共通するのは、買いたたくのではなく、ムダをなくして構成を組み替える発想です。①の廃棄ロスの記録は、発注と仕込みの管理を整えれば品質への影響が小さく、即効性もあります。そのため、最初の一手に向いています。
人件費(L)の削減5施策|FLコストの改善
サービスを落とさず人件費を下げる5つの手
FLコストのうち人件費の改善で避けたいのは、単純な人員カットです。サービスの低下やスタッフの負担増から離職につながり、結果として損失が広がることがあります。正攻法は生産性を上げて、同じ人数でより多くをこなす形です。
| 施策 | 内容 |
|---|---|
| ①需要連動のシフト最適化 | 予約状況・曜日・時間帯の需要に合わせて配置を組む。忙しい時間に厚く、暇な時間に薄くするだけで、サービスを落とさず人件費が下がる |
| ②マルチタスク化・多能工化 | フロント・客室・レストランの垣根を越えて動けるスタッフを育てる。手待ち時間が減り、少人数でも回る体制になる |
| ③業務の標準化・マニュアル化 | 作業手順を標準化すると、教育時間が短くなる。誰が担当しても一定の品質と速度を保て、離職リスクの低減にも効く |
| ④システム・省人化ツールの活用 | セルフチェックイン機・モバイルオーダー・予約管理システムで定型業務を省力化し、人手を接客に振り向ける |
| ⑤外部委託(BPO:Business Process Outsourcing、業務の外部委託)の部分活用 | 客室清掃や予約対応など、繁閑差の大きい業務を外部に委ねる。繁閑に応じてコストを調整しやすくなる。ただし、外注費をLに含めないと見かけのFL比率だけが下がるので、含め方を決めておく |
人件費施策に共通する考え方
つまり、5つの施策は、人を減らすのではなく、同じ人数で生み出す価値を増やす発想です。人件費の適正比率や労務管理の詳細は、ホテルの人件費をご覧ください。
FLコスト改善の失敗パターンと専門家の使いどころ
ありがちな失敗パターン
| 失敗パターン | 内容 |
|---|---|
| 人件費を削りすぎてサービスが低下 | 接客・清掃の質が落ち、口コミ評価とリピートが下がる。売上減がコスト削減を上回り、かえって利益が悪化する |
| 食材を安くして料理の質が落ちる | 原価率だけを見て安い食材に替え、満足度が下がる。料理が売りの旅館では、施設全体の評価を直撃する |
| 数値を見ずに感覚で改善する | FL比率や品目別の原価を把握しないまま、なんとなく削る。ムダの場所が分からず、施策が的外れになる |
| 一度に全部やって現場が混乱する | 食材も人件費も同時に動かし、現場が変化についていけずオペレーションが崩れる |
| 現場を巻き込まずトップダウンで進める | 納得を得ないまま削減を指示すると、モチベーションが下がる。廃棄の記録もシフトの改善も、現場の協力が欠かせない |
内製の限界と専門家の使いどころ
ただし、FLコストの改善を自社だけで進めると、3つの壁にぶつかりがちです。具体的には、分析が続かない、業態比較ができず目標が定まらない、現場と経営の板挟みで施策が中途半端に終わる、の3つです。専門家には現状分析とベンチマークの設定だけを頼み、実行は自社で進める部分活用も選べます。ただし、すべてを外部に任せる必要はありません。
よくある質問(FAQ)
FLコストの見方と進め方に関する質問
FLコストの施策に関する質問
まとめ:FLは「削る」より「組み替える」
FLコスト改善の要点
FLコスト改善の本質は、コストを削ることではなく、同じ満足度をより少ないコストで出せるよう組み替える点にあります。食材費と人件費の高騰が続くいま、FL比率の管理は欠かせない経営課題になっています。
まず、FL比率・FLR・FLMで自館の数字を見える化し、F・Lのどちらに余地があるかを切り分けます。次に、30日プランを1サイクル回し、質を落とさない施策から着手します。特に避けたいのは、数字を見ずに感覚で削ること、人を減らしてサービスを落とすこと、一度に全部を動かして現場を混乱させることの3つです。
なお、自館の位置は、FLR・FLM自動計算で数分あれば確認できます。株式会社リロホテルソリューションズでは、FLコスト構造の分析から、食材費・人件費それぞれの施策の立案と実行まで、一貫して支援しています。
【監修者情報】
「90日で黒字化」を目標に、全国リゾート地・過疎地の宿泊施設を運営してきたプロ集団です。
あらゆる課題を抱える宿泊施設様のご支援を行い、売上の確保だけでなく、収益確保や運営効率まで一貫したご支援を行います。



