ロイヤルティプログラムとは?ホテル・旅館の設計5ステップ
ロイヤルティプログラムとは、繰り返し利用してくれる顧客に特典を提供し、直接予約でのリピートを促す会員制度のことです。特典を豪華にしたのに、会員が増えるほど利益が減るという相談は、支援の現場でも珍しくありません。
この記事では、会員制度の3タイプ、設計の5ステップ、特典ROIの考え方、会員データの活用法をまとめました。直販で浮いた手数料を特典にどう回すかは、仮置きの数字で試算しています。
記事内のリピート率向上ROIシミュレーターを使えば、5項目の入力で、リピート率の改善による年間の増収額と売上ベースのROIを確認できます。
ロイヤルティプログラムとは、宿泊客に特典を提供し、「また選びたい」と思わせて直接予約でのリピートを促す仕組みです。
⚠️ 特典は豪華にするほど良いわけではありません。そのため、原価とリピート効果のバランス(ROI:投資対効果)で設計します。効果の目安はリピート率向上ROIシミュレーターで試算できます。
ロイヤルティプログラムとは?仕組みと必要性
ロイヤルティプログラムの基本とリピーターの価値
繰り返し利用してくれる顧客にポイントや会員特典を提供し、継続的な利用(リピート)を促す仕組みを、ロイヤルティプログラムと呼びます。実際、ホテル・旅館では会員制度やポイントプログラムとして導入され、OTA(Online Travel Agency:オンライン旅行会社)経由ではなく、自社と直接つながる顧客を増やす役割も担います。
なぜ今ロイヤルティプログラムでリピーターを増やすのか
当社の見方では、新規客の獲得は、リピーターの維持より販促費がかかりやすくなります。つまり、OTA手数料が利益を圧迫するなか、自社で直接つながるリピーターを増やすことは、収益構造そのものを改善する打ち手です。また、顧客生涯価値(LTV:Life Time Value)で捉えると、リピーター1人の価値は、1回きりの新規客とは大きく違います。そのため、直接予約を増やす施策と組み合わせると効果が高く、ホテル公式予約・直接予約を増やす方法も参考になります。
OTAと直販で、手取りはどう違うか(試算)
会員がOTA経由から直販に移った場合を想定し、仮置きの数字で、同じ宿泊単価でも手取りがどう変わるかを見ます。手数料は10%と仮置きし、ここでの手取りは手数料を引いた額なので、変動費は引いていません。
| 項目 | OTA経由 | 直販(会員) |
|---|---|---|
| 宿泊単価 | 50,000円 | 50,000円 |
| 手数料(10%と仮置き) | ▲5,000円 | 0円 |
| 手取り(手数料控除後) | 45,000円 | 50,000円 |
たとえば、この差額が月100件発生すると、年間では600万円規模の差になる計算です(5,000円×100件×12か月)。ただし、直販側にも決済手数料や特典の原資がかかるので、実際の差はこれより小さくなります。
国内客が伸びにくいなかでの、リピーターの価値
観光庁の宿泊旅行統計調査(確認日は2026年10月29日)によると、2025年の延べ宿泊者数は6億6,111万人泊(確定値)で、前年比は+0.3%でした。内訳は、日本人が▲2.7%、外国人が+9.4%です。日本人客が減っている以上、すでに来てくれた顧客を再訪につなげる意味は大きくなります。なお、訪日客の動きは日本政府観光局(JNTO)の訪日外客統計で月ごとに確認できます。
「特典が豪華=成功」ではない
よくある誤解が、「特典を豪華にすればリピーターが増える」というものです。実際には、特典のコストが利益を上回ると、会員が増えるほど赤字になります。つまり、成否を分けるのは特典の豪華さではなく、収益とのバランスをとった「設計」です。
会員制度の3タイプ|ポイント・ステータス・サブスク
ロイヤルティプログラムの3タイプは、顧客の再訪動機で選ぶ
ホテル・旅館のロイヤルティプログラムは、大きく3つのタイプに分けられます。それぞれ仕組みもコスト構造も違うため、自施設の規模や顧客層に合うものを選ぶことが第一歩です。
| タイプ | 仕組み | 向いている施設 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| ポイント型 | 宿泊金額に応じてポイントを付与し、次回利用で割引・特典に交換 | 幅広い客層・宿泊頻度の高い都市型ホテル | 付与率が高すぎると原価を圧迫する。失効ルールの設計が重要 |
| ステータス型 | 利用実績で会員ランクが上がり、上位ほど優遇が手厚くなる | 高単価・リゾート・常連を大切にする旅館 | ランク基準が緩いと特別感が薄れる。原価のかからない特典設計が鍵 |
| サブスク型 | 月額・年額を支払うと、定額で宿泊や特典が受けられる | ワーケーション・長期滞在・近隣リピート需要のある施設 | 稼働率が高いと採算が崩れる。利用上限の設計が不可欠 |
3つのタイプは排他的ではないので、「ポイント型をベースにステータス型を重ねる」といった組み合わせも有効です。そのため、重要なのは、自施設の顧客がどんな動機で再訪するのかを見極めることです。「うちの客層だと、どのタイプが合いますか」という質問をよく受けますが、まずは再訪した顧客の来訪間隔と客単価を並べると、答えが見えてきます。
ロイヤルティプログラム設計5ステップ
ロイヤルティプログラム設計の全体像
思いつきで特典を並べると、うまくいきにくくなります。そこで、次の5ステップを順番に踏むと、収益とのバランスがとれた制度に仕上がります。
| STEP | 内容 |
|---|---|
| 1 | 目的とKPI(重要業績評価指標)を1つに絞る(来訪頻度・客単価・直接予約のどれを最優先にするか) |
| 2 | 顧客を分析しターゲットを定める(再訪している顧客の属性・来訪間隔・客単価を分析) |
| 3 | 収益を試算しながら特典を設計する(原価のかからない優遇を軸に、赤字リスクを抑える) |
| 4 | 運用ルールと失効設計を決める(ポイント付与率・有効期限・ランク維持条件を明文化) |
| 5 | 効果測定と改善を回す(KPIを定期測定し、STEP3の特典設計に戻して磨き続ける) |
このうち最もつまずきやすいのがSTEP1です。実際、目的が曖昧なまま特典を盛り込むと、コストばかりかさんで効果が分散します。そのため、まずは1つの目的に絞ることが、成功の起点になります。
制度設計で確認したい景品表示法と個人情報
さらに、STEP4の制度設計では、法令面にも注意が必要です。景品表示法では、取引に付随して提供する経済上の利益は景品類として扱われ、総付景品の上限は、取引価額が1,000円以上なら取引価額の10分の2(1,000円未満は200円)です。この上限は消費者庁の景品規制のページで確認できます(確認日は2026年10月29日)。ポイントが値引きとして扱われるか、景品類に当たるかは、自館での利用に限るか、他社と交換できるかなど、仕組みによって判断が分かれるので、専門家に確認してください。
また、会員データでメールを配信するときは、個人情報保護法と特定電子メール法(事前の同意)への対応が必要です。サブスク型で料金を前払いで受け取る場合は、資金決済法の前払式支払手段に当たることもあります。そのため、いずれも設計の段階で専門家に確認してください。
特典設計の落とし穴と特典別ROI
ロイヤルティプログラムの特典は、ROIで評価する
特典を選ぶときは「喜ばれるかどうか」だけでなく、ROI(投資対効果)で評価します。同じ「会員特典」でも、原価のかかり方とリピートの押し上げ効果は、まったく違うので、評価の軸を分けます。次の表の評価は、当社の見方です。「原価ほぼ無」は直接の原価で、清掃の段取りや次の販売機会といった機会費用は含みません。
| 特典の例 | 原価 | リピート効果 | ROI評価 |
|---|---|---|---|
| 早期チェックイン・レイトチェックアウト・部屋指定 | ほぼ無 | 中〜高 | ◎ 非常に高い |
| 客室アップグレード | 低(空室時) | 高 | ◎ 高い(空室活用が前提) |
| 館内利用券・ウェルカムドリンク | 中 | 中 | ○ 中程度(館内消費を促す) |
| 宿泊料金の直接値引き | 高 | 短期的のみ | △ 低い(単価低下を招く) |
つまり、原価のかからない「体験・優遇系」の特典ほどROIが高く、値引き系はROIが低くなりやすい傾向があります。特に、値引きは客単価を自ら下げるうえ、値引きがないと選ばれない顧客を育ててしまうリスクもあります。
試算:直販で浮いた手数料5,000円を、どう使うか
そこで、先ほどの仮置き(宿泊単価50,000円、OTAなら手数料10%の5,000円)で、直販に誘導して浮いた5,000円を、特典に回した場合を比べます。なお、ポイント還元は5%、値引きは10%と置き、直販側の決済費用は含めません。ポイント還元は、全額が使われる前提です。
| 特典の設計 | 特典の費用(1予約) | 浮いた5,000円のうち手元に残る額 |
|---|---|---|
| A:ポイント還元5% | 2,500円 | 2,500円 |
| B:宿泊料金10%値引き | 5,000円 | 0円 |
| C:原価のかからない優遇(レイトチェックアウトなど) | ほぼ0円(人件費などは含まず) | 約5,000円 |
Bは手数料を丸ごと特典に回すので、OTA経由と手取りが同じになります。直販に誘導する意味が消えてしまうため、特典の費用は、浮いた手数料の範囲内に収める設計にします。
未使用ポイントは「負債」になりうる
未使用のポイントは、会計上、契約負債(従来はポイント引当金)として扱われる場合があります。有効期限・上限・失効条件を設計し、残高を定期的に把握してください。処理は会計士・税理士に確認します。
会員データの活用法
ロイヤルティプログラムで貯まる会員データの3つの価値
ロイヤルティプログラムの本当の価値は、特典そのものより会員データの蓄積と活用にあるため、設計の段階からデータの取り方を決めておきます。OTA経由の予約では、宿側に顧客情報がほとんど残りません。一方、自社会員であれば、来訪履歴・嗜好・連絡先を直接持てます。
| 活用の視点 | 内容 |
|---|---|
| ① 最適タイミングの再訪促進 | 来訪間隔のデータから、「そろそろ次の旅行を考える時期」に合わせて案内を送る |
| ② 嗜好に合わせた提案 | 過去の予約プランや館内利用の傾向から、その顧客が好むプランを優先的に案内する |
| ③ 優良顧客の特定と優遇 | 客単価・来訪頻度から「LTVの高い顧客」を特定し、限られた販促リソースを集中させる |
旅館で相性のよい、館内消費に連動するポイント付与
旅館では、温泉の追加湯・マッサージ・体験プランなど、館内消費に連動するポイント付与が特に相性がよいので、客室単価の引き上げとリピート率の向上を同時に狙えます。
ロイヤルティプログラムとシステム連携
PMS(Property Management System:宿泊管理システム)やCRM(Customer Relationship Management:顧客管理)と連携し、分析やメール配信を自動化できるため、担当者の負荷を抑えながら精度を保てます。
会員データ活用の関連記事
会員データを軸にした再訪促進の考え方は、リピーターを増やすには?ホテル経営を安定させるためのポイントでも解説しています。価格戦略との連携は、レベニューマネジメントとは?ホテル・旅館の価格戦略もあわせてご覧ください。
ロイヤルティプログラムで毎月見る3つの数字
数字を増やしすぎると続きません。そこで、次の3つを、毎月同じ形式で記録するところから始めてください。
【ツール】リピート率向上ROIシミュレーター
リピート率の改善で、年間いくら増えるか
現在のリピート率を改善できたとき、年間でどれだけ増収するかを試算します。なお、ここでのリピート率は、年間の延べ宿泊客数のうち、2回目以降の利用が占める割合です。自館のCRMの来訪回数から、人泊ベースで出した値を入れてください。新規客の人泊数は減らない前提で、リピート率が上がった分を追加の宿泊として計算します。
失敗パターンとうまくいく設計
ロイヤルティプログラムでありがちな失敗パターン
| 失敗パターン | 典型的な症状 |
|---|---|
| 特典が魅力的すぎて赤字化 | 高いポイント還元や大幅値引きを設定し、会員が増えるほど利益が減る |
| 目的が曖昧で効果が分散 | 「とりあえず作る」で始め、頻度・単価・直販のどれも動かない |
| 会員登録のハードルが高すぎる | 入力項目が多く、特典も分かりにくいため、そもそも会員が集まらない |
| 失効ルールがなく負債が膨張 | 有効期限を設けずポイントを積み上げ、将来まとめて費用化する |
| 作って終わりで効果測定をしない | KPIを測らず特典も見直さないまま、コストだけが続く |
うまくいく設計に共通する、設計上の3つの原則
うまくいく施設は、特典の豪華さではなく、顧客のデータを見て設計しています。
内製の限界とプロの使いどころ
ロイヤルティプログラムを自社だけで運用する難しさ
ロイヤルティプログラムは「設計して終わり」ではなく、データを見ながら継続的に改善し続けて初めて成果が出ます。しかし、この継続運用こそが、内製の最大の壁になります。
内製と専門家の使いどころ
具体的には、専門家は、データ分析の基盤、特典ROIの設計力、CRMやMA(Marketing Automation:マーケティング自動化)ツールの運用を組み合わせ、データで回し続けて成果を出すところまで踏み込みます。ただし、すべてを外部に委ねる必要はありません。たとえば、設計の初期段階だけ専門家の知見を借りる、といった部分的な活用も有効です。
よくある質問(FAQ)
ロイヤルティプログラムの制度設計についての質問
ロイヤルティプログラムの運用についての質問
まとめ:リピーターは設計で育てる
ロイヤルティプログラムの要点と次の一手
ロイヤルティプログラムの成否は、特典の豪華さではなく「設計」で決まります。当社の見方では、新規客の獲得にはリピーターの維持より販促費がかかりやすいなか、自社と直接つながるリピーターを増やすことは、OTA手数料に圧迫されない収益構造への転換そのものです。
会員制度はポイント型・ステータス型・サブスク型の3タイプに大別でき、自施設の規模と顧客層に合わせて選びます。また、設計は「目的を1つに絞る→顧客を分析→収益を試算して特典を設計→運用ルールと失効設計→効果測定と改善」の5ステップで進めます。特に、会員制度の真価は、特典そのものより、来訪間隔や嗜好といった顧客データを蓄積し、最適なタイミングで再訪を促せることにあります。
まずは自施設の顧客がどんな動機で再訪するのかを見極め、リピート率向上ROIシミュレーターで収益への影響を試算するところから始めてください。また、株式会社リロホテルソリューションズでは、ロイヤルティプログラムの設計から、会員データの分析・活用、直接予約の強化、リピート率の改善まで一貫して支援しています。
【監修者情報】
「90日で黒字化」を目標に、全国リゾート地・過疎地の宿泊施設を運営してきたプロ集団です。
あらゆる課題を抱える宿泊施設様のご支援を行い、売上の確保だけでなく、収益確保や運営効率まで一貫したご支援を行います。



