ホテル・旅館の客室清掃マニュアルの作り方|基本6工程・チェックリスト・効率化
同じ部屋なのに、担当者によって仕上がりが違う。清掃のクレームが入っても、誰の担当だったか分からない。注意しても直らず、新人が入るたびに一から教え直している。
この記事では、客室清掃マニュアルに必要な項目、基本6工程とエリア別チェックリスト、マニュアルがうまく回らない3つのパターンと立て直し方、動線設計と並行作業による効率化まで、宿泊施設の運営側の目線で整理します。
記事内の清掃時間・人件費 簡易シミュレーターを使えば、清掃室数・人数・1室あたりの時間などの5項目から、必要な人数と1室あたりの清掃人件費を試算できます。
仕上がりのばらつきは、スタッフの腕より「手順と判断基準がそろっていないこと」で起きます。
⚠️ 清掃時間を詰めすぎると、再清掃とクレームで短縮分が消えます。自館の清掃時間と人件費の関係は清掃時間・人件費 簡易シミュレーターで確認できます。
清掃マニュアルがない宿で起きる3つのこと
客室清掃マニュアルに必要な6つの項目
客室清掃マニュアルは、手順を書いた1冊ではなく、次の6項目がそろって初めて機能します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 作業手順 | 何を、どの順番で行うか |
| 判断基準 | どの状態なら合格か。水滴が残っていない、シワがない、など状態で書く |
| OK例・NG例 | 写真で仕上がりの差を共有する |
| チェックリスト | 抜け漏れを防ぐ。エリアごとに分ける |
| インスペクション | 担当者以外が品質を確認し、結果を返す |
| 更新ルール | クレームの後、繁忙期の後、スタッフの入れ替わりの後に見直す |
仕上がりのばらつきは「仕組み」の問題
「清掃のクレームが入った。でも、誰が担当した部屋か分からない」。マニュアルのない施設では、こうした場面が繰り返されます。原因はスタッフ個人の能力より、誰がやっても同じ結果になる手順と基準がそろっていないこと。ここを変えない限り、注意しても再発します。運営支援の現場で見ても、マニュアルはあるのに仕上がりがそろわない施設は、基準を書いていないというより、基準を確かめる場面(インスペクション)がない例が少なくありません。
| 起きること | 原因 | マニュアルでの解決 |
|---|---|---|
| 仕上がりのばらつき | 「きれい」の基準が各スタッフの感覚に任されている | 手順・判断基準・OK例/NG例の写真で標準化する |
| 教育の手間が減らない | OJTだけでは伝え漏れが多く、教える人の時間も取られる | 図解とチェックリストで、新人が自分で確認できる形にする |
| クレームと口コミの悪化 | 髪の毛1本、水滴1つが口コミの低評価につながる | セルフチェックの習慣化と、インスペクション体制の整備 |
💡 放置すると連鎖します。ベテランが辞めると品質が落ちる。新人教育に管理者の時間が取られ続ける。口コミの清掃評価が下がり、単価を下げないと予約が入らなくなる。清掃の問題は、RevPAR(販売可能客室1室あたり売上)にも跳ね返ってきます。
客室の衛生管理そのものの考え方は、厚生労働省の旅館業のページに掲載されている「旅館業における衛生等管理要領」が土台になります。マニュアルは、この要領を自館の客室と設備に合わせて具体化したもの、と考えると整理しやすくなります。
客室清掃の基本6工程とチェックリスト
清掃開始前の準備
入室前の準備で、清掃中の往復が減ります。カートにタオル・アメニティ・洗剤がそろっているか、用具に不備がないかをシフトの最初に確認します。積み方の一例を挙げます。
| カートの位置 | 積むもの | 理由 |
|---|---|---|
| 上段 | アメニティ・備品の補充品 | 一番よく手に取るものを取りやすい位置に置く |
| 中段 | タオル・ナイトウェア | 腰の高さで、かがまずに取り出せる |
| 下段 | 重いリネン類 | カートが安定し、取り忘れも防げる |
この配置は一例です。カートの形状や施設の運用に合わせて、使う頻度と重さで決めます。入室前には、連泊・VIP・特別なリクエストの情報を確認し、ノックと声かけで不在を確かめてから入ります。
基本6工程と「その順番の理由」
清掃の順番は施設のオペレーションで前後しますが、考え方には衛生と効率の両方の理由があります。ここでは基本の6工程を例に説明します。換気と水回りを先に済ませれば、湿気やにおいが抜けた状態でベッドメイクに移れます。「上から下へ、奥から手前へ」と動線を固定すれば、拭いた場所を汚し直す二度手間もなくなります。
| 工程 | 主な作業 | 押さえるポイント |
|---|---|---|
| ①換気・ゴミ回収 | 窓の開放、ゴミ箱の回収と分別 | ゴミ箱の底の汚れと袋の交換まで行う |
| ②忘れ物確認 | ベッド下・引き出し・金庫・冷蔵庫の中 | 見つけたら客室番号・場所・品名・状態を記録し、フロントへ引き継ぐ |
| ③バスルーム | 天井→壁→浴槽→トイレ→床の順 | 蛇口・鏡・シャワーヘッドの水滴は必ず乾拭き。目地と隅のカビも確認する |
| ④ベッドメイク | リネン交換、角の処理、枕の整列 | 中心を合わせ、引っ張りながら入れ込んでシワを残さない。髪の毛の確認も続ける |
| ⑤室内清掃 | 棚・照明・テレビ・鏡・掃除機 | 掃除機は奥から入口へまっすぐ。リモコンや備品は決まった位置に戻す |
| ⑥最終確認 | 入口から時計回りに全体を点検 | 照明・水滴・リネンのシワ・空調の設定を、宿泊客の目線で確かめる |
エリア別チェックリスト
エリアごとのチェックリストを作ると、ベテランの慣れによる見落としと、新人の知識不足による見落としを同時に防げます。
| 場所 | 確認項目 |
|---|---|
| 水回り | 髪の毛の除去、鏡・蛇口の水滴と水垢、タイルのカビ、規定数のアメニティ、トイレットペーパーの端の処理 |
| 寝室・ベッド | リネンのシワと汚れ、照明の点灯、空調・テレビの動作、メモ帳・リモコンの定位置 |
| 入口・収納 | ドアノブの指紋、ゴミ箱の袋交換、ハンガーの向きと数、金庫・クローゼットの忘れ物 |
清掃マニュアルがうまく回らない3つのパターン
パターン①:作ったまま使われない
マニュアルを配った。でも誰も開かない。チェックリストは形だけの押印になっている。原因は、配っただけで「使う場面」を用意していないことにあります。忙しい現場で、自分からマニュアルを開く余裕はありません。
立て直し方:研修や朝礼で、マニュアルを開きながら実際に作業する時間を作る。チェックリストの提出を日々の決まりにし、管理者が目を通して返す。この2つで、参照する習慣が根づきます。
パターン②:マニュアルがあるのに仕上がりがそろわない
根本の原因は、判断基準のあいまいさです。「清潔にする」と書いただけでは、10人いれば10通りの解釈が出てきます。OK例とNG例を写真で並べ、「乾拭き後に水滴が残っていない」のように状態で基準を書けば、経験の浅いスタッフでも同じ判断ができます。
立て直し方:清掃後のインスペクションを続け、指摘を担当者に返す。習熟度に合わせた同行研修で、基準の感覚をそろえる。
パターン③:マニュアルでは解決しない課題がある
人手不足で無理なシフトが続いている。外国籍スタッフへの指導がうまくいかない。繁忙期だけ品質が落ちる。こうした課題は、マニュアルを直しても解決しません。原因が業務フローや人員配置にあるからです。運営の現場で清掃の相談を受けると、入口はマニュアルでも、掘り下げるとシフトと人員配置に行き着く例がよくあります。
立て直し方:言葉の壁には、やさしい日本語と英語の併記、写真中心の構成で対応する。人員配置やシフトの問題は、下のシミュレーターで必要人数を出し、数字で見直す。
清掃を早く仕上げる動線設計と並行作業
並行作業で待ち時間をなくす
清掃時間の短縮は、急がせることではありません。ムダな動きを設計で取り除くことで生まれます。
カートと備品の配置を決めて迷う時間をなくす
「清掃時間は何分が正解ですか」という質問をよく受けますが、客室の広さや設備、チェックアウトか連泊かで大きく変わります。まず自館で客室タイプ別に実測し、品質を保てる時間を基準にするのが出発点です。
現場で機能するマニュアルの作り方
チェックリストと写真で「見れば分かる」形にする
現場で使われるマニュアルの条件は、一目で正解が分かること。文字ばかりのマニュアルは、忙しい現場では開かれません。チェックボックスで抜け漏れを防ぎ、OK例とNG例を写真で並べると、「きれい」というあいまいな感覚を目で確かめられるようになります。
形式は使う場面で選びます。水回りで使うならラミネートした紙、本部とすぐ共有したいならタブレット。写真中心の構成は、外国籍スタッフの教育にもそのまま使えます。
あいまいな言葉を使わず、動作で書く
「確認する」「整える」と書いただけでは、人によって解釈が分かれます。「ドライヤーの電源を入れ、温風が出るか確かめる」のように、一続きの動作まで書き下ろす。エリアと動作ごとに項目を分け、何をもって完了とするかも書き添えます。
現場の意見を入れ、定期的に見直す
管理者だけで作ったマニュアルは理想に寄りがちで、実際の動線や時間の制約とずれていきます。半年から1年ごとの定期見直しに加え、クレームが出たとき、繁忙期が明けたとき、スタッフの入れ替わりがあったときにも見直す。現場スタッフが「守れる」と言えるルールに寄せていきます。
内製の限界と外部の力の使い方
清掃品質を特定の担当者の経験に頼っている施設では、次の3つが繰り返されます。ベテランの退職で品質が落ちる。繁忙期に教える余裕がなくなる。クレームが出ても原因を特定できない。マニュアルは道具で、使いこなす業務フロー、教育体制、人員配置がそろって初めて効果が出ます。
慢性的な人手不足が品質低下の根にある施設では、採用と定着の手当ても欠かせません。ホテル・旅館の人材確保は、宿泊業に特化した採用支援を行う株式会社エキップに相談する方法もあります。
【ツール】清掃時間・人件費 簡易シミュレーター
試算例:清掃時間を5分縮めたときの人件費
運営の現場で清掃の人件費を見るときは、まず1人時あたりの清掃室数から確認します。清掃時間は品質の問題であると同時に、人件費の問題でもあります。仮の数字で試算してみます。1日40室を清掃し、時給1,300円、月30日の施設です。1室あたりの清掃時間を35分から30分に縮めたとします。
| 項目 | 見直し前 | 見直し後 | 増減 |
|---|---|---|---|
| 1室あたりの清掃時間 | 35分 | 30分 | ▲5分 |
| 1日の清掃時間の合計(40室) | 23時間20分 | 20時間00分 | ▲3時間20分 |
| 1室あたりの清掃人件費 | 約758円 | 650円 | ▲約108円 |
| 月間の清掃人件費(30日) | 約91.0万円 | 78.0万円 | ▲約13.0万円 |
| 再清掃が月60室出た場合の追加分 | ― | +3.9万円 | +3.9万円 |
| 差し引きの効果 | ― | ― | ▲約9.1万円 |
5分の短縮で月13万円ほどの人件費に相当しますが、時間を詰めた結果として再清掃が増えれば、効果は目に見えて削られます。清掃の人件費は、GOP(営業総利益)を左右する営業費用の中でも大きな項目のひとつ。品質を落とさない範囲で動線を見直すことが、利益に直結します。
現場で毎月確認したい3つの数字
数字を増やしすぎると続きません。次の3つを、毎月同じ形式で記録してください。
清掃時間・人件費 簡易シミュレーター
5項目を入れると、1日の清掃時間の合計、必要な人数、1室あたりの清掃人件費を試算します。清掃を5分縮めた場合の月間の人件費も表示します。
よくある質問(FAQ)
まとめ:清掃品質の安定が収益の土台になる
誰が担当しても同じ仕上がりになる。清掃マニュアルの目的は、この一点です。仕上がりのばらつきは、スタッフ個人より仕組みの問題。手順と判断基準をそろえ、インスペクションで確かめ、現場の意見で見直していく。この3つを回し続けることが、品質を安定させる近道です。
作り方のポイントは3つ。チェックリストとOK/NG写真で「見れば分かる」形にする。「確認する」「整える」を使わず、動作で書く。半年から1年ごとの見直しを、あらかじめ予定に組み込む。清掃時間と人件費の関係は、上の清掃時間・人件費 簡易シミュレーターで自館の数字を入れて確かめられます。
人手不足が品質低下の根にある場合は、マニュアルと並行して採用と定着の手当ても必要です。宿泊業の人材確保は、株式会社エキップのような宿泊業に特化した採用支援を使う方法もあります。
清掃オペレーションを見直したい方へ
マニュアルを整えても品質が安定しない場合、原因は業務フローや人員配置にあることが少なくありません。リロホテルソリューションズでは、清掃の運用とシフト設計の見直しについて、無料でご相談を受けています。
【監修者情報】
「90日で黒字化」を目標に、全国リゾート地・過疎地の宿泊施設を運営してきたプロ集団です。
あらゆる課題を抱える宿泊施設様のご支援を行い、売上の確保だけでなく、収益確保や運営効率まで一貫したご支援を行います。



